第482話 爺の苦悩
その男はいつも突然現れる。
今回も嵐のように店に来ては直ぐに去っていった。従魔達の情報を置いて。
私がその情報と対峙して、頭を捻らせていると、またもや嵐がやってきた。凄い暴風と大雨を携えて。
あの男は何を考えたのか、現金にして約一千万ほどを儂の前におき、またもや去っていった。
……なんなのだ、なんなのだ? いや、男が望んでいることは分かる。従魔達の装備を作って欲しいのだろう? それくらいは分かる。
しかし、その従魔といっても数が多いのだ。六体、しかもどれも個性的なモンスターだ。以前は一体だけであったのに、いつの間に数を増やしているのだろうか。
それにお金だ。この金はなんの目的で置かれてるのだ? いや、代金というのは分かる、分かるのじゃが、それにしても頭がおかしいと言わざるをえんのだ。
装備に一千万かけるやつがどこにおるのじゃ? そりゃ、素晴らしい魔剣や、防具、魔道具にならかけるかもしれん。ただ、それは既にあるものを購入する、というものだろう。
しかし、これは製作を依頼している、という形だ。つまり、あの男は儂に一千万分の装備を作れ、というのじゃ。しかも、この従魔達に。
こんな馬鹿げた男この世に他としているだろうか。否、居るわけがない。
だが、この金額は儂に期待しているということとも取れるのじゃ。名もなき職人に渡す金額ではないからのぅ。しかし、それだけの価値を認めているということは確かなのだろう。
じゃが、じゃがそれでも荷が重い。今までは依頼されて、完成した後に代金を頂戴してきた。それが普通だ。しかし前払いとなると、期待に添えるものではなければ完成品も必要ないからお金も要らない、ということにもなるかもしれんのじゃ。
それは流石にそれまでの時間が無駄とまではいかないが、かなりキツイじゃろう。
つまり、儂は失敗できんのじゃ。
そもそも、先程あの男から発せられたオーラは異常だった。初めて会った時から思っていたのだが、今ではそれの何倍もの圧なのだ。
金額的にもそうじゃが、そもそも依頼人からして儂の拒否権は無いのじゃ。
たまには弟に頼るのもアリかもしれんのぅ。兄一人で背負うには些か大きすぎるとは思わんかね?
❇︎
「ふぅ……完成じゃ」
合計六つの装備が完成した。それぞれの従魔に合った性能を有しておるはずじゃ。製作の前段階からかなり試行錯誤し、考え抜いた結晶じゃ。
これは必ず認められると信じておるがやはりまだ不安でもあるの。
だが、装備が一級品であることは間違いないのじゃ。他の人にも売れることじゃろう。
もしかしたら、そちらの方が合計が高くなるかもしれんしのぅ。もう、賽はとうの昔に投げられていたのじゃ。それこそ、あの男と出会ってしまった時からな。
今更、この老いぼれがいくら足掻いた所で、凶悪かつ気まぐれな嵐には抵抗しようもないのじゃ。
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