第477話 特訓コース


 組長息子の指導は三日に渡って続けられた。彼にとって人生でもっとも濃密な時間を過ごしたことだろう。


 不眠不休、この言葉すら生ぬるく感じるほど常に脅威に晒され、時には凍え、時には燃え、時には拘束され、時には毒に悶え、時には巨漢(アシュラ)と組み手をさせられ、もうてんやわんやだ。


 彼としてもただただパニック状態でしかなかっただろう。


 一日目で希望を失い、二日目で絶望すらも失い、三日目で漸く生というものを思い出すことができるこの鬼の、いや、死の特訓合宿コース。


 人肌剥きたい(物理的に)方には是非オススメだ。今までとは世界がまるで別物に見えるようになることを確約する、この機会に是非ご参加下さい。


 しかし、これまではあくまで体作り、何事も基礎ができていないとダメなのだ。これを怠った者に成長は無いと心得よ。


 ここから実戦を行うのだが、ここからが本番となる。強さの定義は人によって違うのかもしれないが、やはり強き者を倒してこその力だろう。組長がどのような強さを求めているのかは分からないが、分かりやすい実績があれば認めざるを得ないだろう。


 もう、この息子さんに至っては既に俺が瞑想を何時間もしたような目に仕上がってる。この子はかなり才能があるかもしれない、これからの成長に期待だな。


 特訓の最中に、このコースが終わっても必ず鍛錬を続けるよう、命令というか暗示というか、脅しておいたから一時的なものになることもなく、成長していってくれることだろう。もしかしたら、俺を超えてくれることがあるかもしれない。


 もし、そうなったらなったらでとても胸熱展開だな。そんな日を待ち望みながら俺も鍛錬に励めるな。


❇︎


「これにて、俺からの指導を終える。これまでよく耐えた。誇って良い、お前は俺の初めての弟子なのだから」


「…………!」


 感無量のようだ、もう言葉要らぬらしい。彼には適当にモンスターを屠って貰いつつ、俺が見つけてきた強そうなモンスターを最終試験とした。


 彼は死闘を繰り広げていたのだが、結果としては見事彼が勝利し、この実戦コースをクリアできたのであった。


 この特訓が始まった時とは、まるで違う顔つきになった彼からはどこか、いくつもの死線を掻い潜ってきた歴戦の戦士じみたオーラが放たれている。


 これならば師匠としても送り出すに恥じない結果だろう。後は組長に認められるかどうか、だが……



 ちょっと心配だからもう少しだけモンスター倒させとくか。


❇︎


 その後も組長の息子は何度か死線を越えてから一週間ぶりにようやく父に会えるのであった。


 それでも不安だった俺は技伝授を試そうとしたが、仙人ではない弟子には流石に継げなかったようだ。

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