第428話 心のデト
全身を絡みつかれたデトックスは、苦しげな表情すら見せずに、終始穏やかな表情でいた。相手の気持ちをただ受け止めるかのように、過ちを犯した者の独白を静かに聞いてあげるように、絡まれているはずがむしろ抱きつかれていると錯覚すらするほどの光景だった。
どれくらいの間そうしていただろうか、徐々に絡みついていた手足は本数が減っていき、その長さも太さも縮んでいった。
気づくと化け物だったはずの男が、泣いている小さな一人の少年の姿に変わっていた。
どういうことなのだろう。完全に劣勢の状況と見えたその時から、何をするでもなくそこに佇んでいただけで相手を弱体化してしまった。
今度は、相手の弱体化に合わせるように、竜の姿であったデトックスも、元のカメの姿に戻っていた。そしてそのまま歩み寄り、カメにしてはおそらくゴツすぎるであろうその足で少年の頭をとても繊細に優しく撫でた。
撫でられた少年は、泣くのを止め、最大級の笑顔を見せてくれ、そのまま小さな光の結晶となり、消えていった。
あの少年はどうしてここまでになってしまったのだろうか。男性の姿であったのに今は少年になっているということは、やはり小さい頃にあった記憶がトラウマになっていたりするのだろうか。
それにしても、ゲームだからと一蹴するにはあまりにもリアルというか、人間味がありすぎたな。だって、普通に考えたらボスキャラが一般男性ってあり得なくないか? まあ、そんな所も含めてこのゲームの良さなんだろうが。
まあ、何はともあれ、無事デトックスが勝利して良かったな。一時期はかなりヒヤヒヤさせられたが、本人は全く恐れていなかったな。カメとしての胆力なのか、それともデトの器が広いのかは謎だが、それでも立派な姿を見れてとても良かったな。
『お疲れ様、デト!』
『ありがとうございます』
デトは行儀良くペコリと頭を下げて、この場を用意してくれた俺に感謝した。うむ、我ながらいい子だ。
『今回の勝利はお前が掴み取ったものだぞ? この経験を次に生かしてこれからも活躍してくれよな!』
『かしこまりました』
『それにしても、あの絡みつかれている状況でどうやって相手を弱体化したんだ?』
『はい、あれはですね、全身に絡みつかれるまでは分からなかったのですが、その時に何やら相手の声が聞こえてきたのです。嫉妬、憎悪、怨恨、様々な負の感情が聞こえてまいりました。私はそれにただただ耳を傾け、それでもいいんだよと語りかけていました。まあ、伝わっているかはわかりませんが、最後は伝わったのでしょう。最後に本来の姿に戻ってくれましたのです』
いや、戻ってくれましたのです、じゃーねーよ。ってことはデトは心のデトックスまでできるようになったってことか。
確かにデトは毒に触れることでたくさん強化してきたが、まさか人間の毒にもその効果があったとはな。戦闘中に成長するというまさかの主人公展開だったとはな。流石だな、デト!
あ、俺も心のデトックスしてもらおうかな?
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