第426話 デトの本気
うつ伏せの状態からカチ上げるように、怨恨の視線をぶつけてくるボスは思ったよりも気迫があり、一筋縄ではいきそうにない相手だった。
四肢がないという明らかなデメリットを晒しておきながらもなお、何かあるんじゃないかと思わせるそのオーラ。敵としては申し分ないだろう。些か不気味すぎるという点を除いてだが。
もっと、血と汗がぶつかるような熱い戦いを期待していたのだが、こうも鬱屈とした雰囲気のなか、ジメジメした戦いをするとはな。だが、逆にそれがカメであるデトックスには良い作用をもたらすかもしれない。
『デト、いけるか?』
『もちろんでございます』
本人がこういっているのだから無用な手出しはしない。俺がされたら嫌だしな。ただ、命に関わってくると判断した場合にのみ救済措置を取らせてもらう。まあ、それくらいは許してくれ。
『じゃあ、行ってこい』
『わ、分かったカメ』
デトックスが遅々とした歩みで前方に歩み寄る。そして両者が向かい合い、一時の静寂が場を支配する。
ダッ
その刹那、うつ伏せになっている相手の胴体から無数の手とも腕とも足ともつかない、それこそ触手のようななんらかの物体がボスから生えてきた。しかし、それらは触手というには、酷く肉体的で、生物的で、血生臭かった。
デトックスに襲いかかる無数の手足。デトックスはすぐさま甲羅に閉じこもり、防御を選択した。
しかし、その触手もとい手足はその甲羅の奥にまで侵食してきた。流石に甲羅の中がどういう構造をしているのか分からないため、少しばかりの不安感が俺を襲った。だが、それもすぐに杞憂に終わった。
なんと、甲羅の奥に入り込んだその手足がすぐさま嫌がるように、甲羅から飛び出てきたのだ。そしてそれらの先端は紫や黄色、緑を混ぜたような、マーブル状にしたような、見るからにヤバい色となって出てきたのであった。
恐らくなんらかの形でデトックスが毒を与えたのだろう。それも一つ二つではなく、入り込んだ全ての手足に毒の症状が見られるため、恐らく噛みつく以外の行為でそれを行ったのだろう。もしかしたら、甲羅の中には毒が充満しているのかもしれない。
再びの静寂。しかし、明らかに余裕があるのはデトックスだ。完全な防御体制を張っているデトの前に、ボスであるその男は先ほどと比べて何倍もの怨恨、憎悪をその目に宿していた。
この状況はボスが攻めあぐねているように見えるかもしれない。しかし、デトックスがどうやって攻撃するのか、が見当もつかない。戦闘スタイル的に待って待って待って、確実にいけるタイミングで行く。というものだろう。
今回もそれでいくのだろうか。
だが、そんな俺の予想もいい形で裏切ってくれた。
『ここで決めるカメ、【ヴェノメスト】』
その言葉が俺の耳に、脳内に響いた時、鈍重な亀は堅牢なる竜へと姿を変える。
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