第397話 倍返し
俺の前には先程までいたはずの女性の姿はなく、真っ黒で頑丈な皮膚を持った悪魔が、そこにはいた。
「ふふふふ、さっさと死なないお前が悪いんだ。後悔してもタダじゃ死なせない! 食らえっ!」
先程までの猫撫で声はどこに行ったのだろうか。ドスの効いた声で俺に脅しをかけてきた。そして、食らえと言うが早いか行うが早いか、体から無数の触手を展開し、目まぐるしいほどのスピードで俺に襲わせてきた。
俺はただただ無心になって避けていた。右左と考えるよりも先に体が反応してしまうのだ。まるで一足す一は二と考えるまでもなく、答えを発するまでもなく分かってしまうような、そんな感覚だ。
でも、流石に悪魔になって体力も大幅にアップしたのかキレも上がり、スピードも上がり、殺意も増し増しになってきた。
これは流石に気合入れなければと思ってた矢先、
視界が九十度、回転した。
「おほほほほ! 私の攻撃がこの可愛い触手ちゃん達だけだと思ったら大間違いよ! この地下は私のフィールドなんだからね、貴方は私に勝てる道理がないの!」
ふむ、どうやら俺は地面から突如出てきた、細い触手によって転ばされたようだ。相手が出す触手しか意識を向けていなかったからだ。
これはしっかりと視る必要があるな。
「【叡智啓蒙】!」
今までパッシブで発動していたスキルをアクティブで発動した。途端、今までとは比べ物にならない程の情報量が一度に俺の元に流れ込んできた。まあ、修行の時に需要限界量はかなり増やしてたからなんとかなったが、それでもかなりの量だ。修行していなかったら、軽く死ねるレベルだぞ。
そのくらいこの空間には気を遣うべき要素が多いと言うことだ。罠も沢山ある。俺を倒した触手は悪魔のものだがその他にも、毒が塗られた矢がそこかしこに装填されてたり、針だってある。なかなか性悪女だなコイツ。
ここまでの思考時間、およそ……って分からねーか。俺の体感時間が引き延ばされてるんだからな。
それに今まではただ避けてただけだ。別に反撃しちゃダメって言われたわけでもそう言う縛りプレイを楽しんでたわけじゃない、ただの気まぐれだ。だから俺、別に反撃してもいいよな?
寝転がっていた俺は逆再生するかのように立ち上がり、相手を正面に見据えた。
「お前って、中身すっからかんだな」
「なっ……!?」
「お前には男爵悪魔が経営している所の、売春婦がお似合いだよ。まあ、そうは言ってもあいつはもう居ないんだけどな」
「はあ? な、何を言っているの?」
目の前の子爵悪魔は俺が放った言葉の情報量の多さに困惑しているのだろう。まず男爵悪魔のところの売春婦がお似合いっていう最低ランク、いや最高ランクの侮辱の言葉に腹を立てようとした。が、その後の『アイツはもう居ないんだよな』で、その同僚が死んだという事実と、目の前の男がその悪魔を倒した人間だということが判明した。
あれ、俺も頭の中で整理してたらゴチャついてきたぞ? まあ、いいか。
やられたら、やり返す……倍返しだ!!
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