第396話 女の中身


 目の前には一人の女性がいた。年齢は高めの一般的には美女と呼ばれる類の人だろう。


「うふふふ、どうしたのそんなに見惚れて? 私がそんなに綺麗?」


 うん、こういう奴は嫌いだ。自分に圧倒的な自信があり自他ともに認める美女、みたいな奴は嫌いだ。大事なことだからもう一度言おう、こういう奴が嫌いだ。


「あらあら、そんなに怖い顔をしなくてもいいのに、それより坊やはどこでこの場所のことを知ったの? お友達から聞いたの?」


 これは、男爵の時と似たような篩にかけているのだろうか。まあ、仮にそうだったとしてもその網をすり抜けられる回答をしらないのだから対処のしようも無いのだが。


 どちらにせよ、バレるのだ。適当に言おう。


「闇の友達に教えてもらいました」


 適当なこと言おうとしたら、なんとも厨二チックな答えになってしまった。これだと俺がクソDTみたいじゃねーか!


「あら! ビックリしたわ、さては当てずっぽうで言ったわね? ここでの正解は「すっごく可愛いお友達に教えてもらいました」が正解よ。惜しかったわね、というわけでさようならー」


 なるほど、暗号形式になっていて、それを答えるっていうシステムだったのか。ならばはなから俺がこの問いに答えられる可能性はゼロだったというわけか。まあ、どうせ今から戦闘開始だし、それでもいいか。


 俺の眼前には、今までは女性の腕だったと思われる、触手が迫っていた。先端は鋭く尖っている。


 容赦ないな、それに明らかに男爵の頃とは強さが違う。スピードも桁違いだ、もう考えている暇が無くなった。


 俺は瞬時に体を横に倒して避けた。ギリギリだった。よく見ると先端には毒々しい紫色の液体がついており、毒であることは疑いようも無かった。


「あら、意外とやるのね坊や。でも最初の一発で死んでた方が良かったわよ? 貴方が抵抗すればするほど死の絶望を味わうことになるのだから」


 悪魔の女は触手を引き戻しながらそう言って、言い終わった直後、二本の触手を展開した。ふむ、なかなか凶悪な構えだな。


「さぁて、どこまでもつかしら?」


 ギュンッ、と触手を伸ばして俺にその針を当てようとする。が、俺は最小限の動きでその全てを避けていく。スキルを発動している限りかなりスロースピードで見えるし、予測も可能だ。あと十時間とこれが続いても余裕なくらいだ。


 ただ、それだと逆に相手がもつか心配だな。


「な、なんで当たんないのよ!」


 女は相当焦っている。坊やと侮っていた相手に自分の攻撃が当たらないのだから当然だろう。そして、先ほどとは対照的に、俺がとても余裕そうな顔をしているのだ。どんな悪魔とはいえ、実力の差を見せつけられれば嫌でも余裕をなくしてしまう。


「く、こうなったら!」


 すでにある触手が二倍の四本へと分裂した。軽くなったためかスピードも上がり、少し手強くなった。気をつけねばならなくなったし、本腰を入れて避けなければならなくなった。


 しかし、それだけである。俺の余裕は全然変わらない。これでも八時間は軽く保つ。


「なんで当たんないのよ!! お、おかしいわ、こうなったら本気を出すしかないようね!」


 そう言って女は本性を現した。醜い醜い悪魔の姿になったのだ。


 うん、やっぱり女の中身って醜いよな。

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