第382話 最後の挨拶


「んー」


 儂はただの仙人をやっておる者なんじゃが、どうも最近悩みが絶えないのじゃ。それは弟子のことなんじゃが、弟子がもうすぐ仙人になれそうというところで、儂の話を聞かずに行ってしまったのじゃ。


 仙人になるには必ず師匠の話を聞いてから修行に励み、そして師匠が老いてお隠れになった頃にようやくなれるというものじゃ。それなのに儂の弟子はろくに話も聞かずにすぐに何処かへ行ってしまうのじゃ。


 素材は正しく光り輝く宝石の原石であるというのに、磨き方を間違えれば、その原石も台無しじゃ。儂はそれがどうももったいなく感じてしまっての。人に対してもったいないというのも変な話だが、そういうことなのじゃ。


 仙人になった今でも、こうして雑念に取り憑かれておる儂はやはりまだまだ半人前ということだろうな。自分が弟子に迎えると決めた以上、責任を持って面倒を見て、そして、信頼するところは最後まで信じてこその師匠じゃ。


 じゃが、少しだけ居場所を確認するくらいはよかろう。な?


「【千里慧眼】、ふむふむふむ。ん? ……な、なに? どこにもいないじゃと?」


 おかしい、そんなはずはあるまい。この仙術とは仙人にしか使えぬ神通力、それを掻い潜ることなど、今の弟子にはできるはずもなかろう! では、なぜだ、なぜ儂の術がきかんのじゃ!


「よお、爺さん!」


「ひぇっ! 誰じゃお前は!」


 なんの気配も無かったはずの背後から、急に声をかけられた。背中をとられるのなんぞ、いつぶりじゃろうか。だが、見えた姿と、その気で瞬時に誰かが分かってしまった。そこにいるはずのない人物じゃった。


「お、お前……」


「誰じゃって酷いな、これでも一応師弟関係だろ。もう、ボケが始まったのか?」


「な……!? こ、この気配は……?」


 まさか、もうこんな短時間で成し遂げたというのか、この男は? つくづく規格外とは思っていたがまさかこれ程とは……正直、儂が扱って良い代物では無かったわい。


「もう気づいてると思うが、一応、仙人になったことを報告しようと思ってな。それに、仙術のこともあるし、最後に手土産をもらおうなかと思ってさ」


 なるほど、そういう訳かい。しかし、驚いたもんじゃな。これほどのスピードでしかも独学で仙人に至る人間がいるとはな。本当に儂もまだまだじゃな。また、本腰を入れて修行せねばな。


「そうじゃな、いろいろ言いたいこともあるが、お主はそれを望んでおらんじゃろ。仙術について、重要なことだけを教えてやろう。

 仙術とは、仙人だけが使える技じゃ。もう知っておるとは思うが、伝授と生成によって技を作ることができるのじゃ。伝授は比較的簡単に覚えられるのじゃが、一人の仙人につき、一つまでしか受け継ぐことができんのじゃ。しかも、受け継がせる技はその仙人次第じゃからな。ちゃんと良く見極めるのじゃ。

 生成に関しては非常に難しいのじゃ。一生をかけて一つの技を極める者もいるくらいじゃがな。儂もまともな技は片手で数えるほどしかまだできておらん」


「え、そうなのか? 生成はもっと簡単じゃないのか? だって、俺、もう既に一つ作ってるぞ……?」


「は??」

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