第378話 錯誤と結晶


 一点に集中させる。


 ただそれだけを意識して、今まで何百と行ってきたことをする。


「【叡智啓蒙】、【己没同化】!」


 一気に広がっていく感覚を押さえつけて一点に絞っていく。


 あ、言い忘れていたがここは雪山だ。初めてのことだからなるべく邪魔が入らないところの方がいいだろう。それに、ここが一番集中できるのだ。気温的にも景観的にもいいんのだ。寒くて、白くて、集中してくださいと言わんばかりだ。


 感覚を押さえつけて、一点に絞る。口で言うのは簡単だが、実際にやろうとすると意外と難しい。勝手に広がっていくし、一つに定まりづらいのだ。


 ん、一つ? 一つに定める、というのならばもっと具体的にしなきゃだよな。俺はなんとなく、ここら辺に集中する、みたいな感じでざっくりと集中していた。だが、それでは無理なのは明らかだ。


 もっと具体的にはっきりと細く指定してこそ集中できるってもんだよな。


 よし、さっきまでは雪を漠然とみていたが、今からは雪を見よう。それも雪一粒だけに集中するのだ。視界に映るものだけではなくその奥まで見る感じだ。


「ふぅー」


 結構良いところまで行けた気がするんだが、神秘には触れてないんだよな。でも、なんか惜しい気がする。それに、もっと集中したいのだが、イマイチできない。まるで見えない壁に阻まれているようだ。


 もっと集中する方法はないだろうか。もっと個に集中する方法……恐らく物理的に近づいても意味ないからなー、視界はそんなには関係ないというのが俺の持論だ。


「んー、どうしたもんかなー」


 ドサッ


 どうするか迷って、取り敢えず雪山の銀世界に体の全てを投げ出した。


 その時、俺の頬にぴと、っと一粒の雪が舞い降りてきた。


「あ、」


 そうじゃん。何も積もっている雪原の雪に集中する必要なんかねーじゃん。降ってくるのは一粒ずつなんだから、そっちに注目した方が早いじゃねーか!


 俺はなんてアホだったんだ! そりゃそーだよな。個に集中する! とか言いながら個がたくさん集まっている、集団を見ていたのだからな。なるほど、そうと分かれば話は早い。


 俺は真っ直ぐ前に手を伸ばした。もちろん手のひらを天に向けてだ。


 そして、ひらひらと? しんしんと? 舞い降りてきた天使のような雪を大事に迎え入れ、そのまま全意識をそこに投入した。


「【叡智啓蒙】、【己没同化】!!」


 すると、そこに映ったのは、宝石と見紛うほどの美しさを放つ、雪の結晶だった。


 これほど小さいのにも関わらず、その細部にまで緻密な模様が描かれているのだ。これを世界の神秘と言わずして、なんというのだろうか。もし、この世に神という存在がいるとするのならば、言いたい。


 これほど素晴らしい世界をありがとう、と。




ーーー第一職業が〈仙人〉に変更されました。


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