第376話 初めての死


 俺は死んでいた。


 それは衝撃的なことであるが、それと同時にそんな気もしていた。漠然と感覚的に理解していたのだろう。


 俺が死んだ。ということは、もちろん死に続けるということだ。よし、


「ふぅー、【叡智啓蒙】!」


 ッッバーーーン!


 死に戻った。


 今度は死ぬ瞬間を予想できたから、意識してどんな反応が起きてるのか、注意深く確認した。すると、なんとなくだが、鼓膜が破れるような、そんな感覚だった。


 そもそも鼓膜は大きな音で破れるのではなく、衝撃で破れるのだが、耳の真横で爆音を鳴らしたような感覚だ。


 俺は別に耳の真横で爆音を鳴らしたこともなければ鼓膜が破れたこともないのだが、あくまでイメージだな。そんな印象だった。つまり、体が耐えうる容量を超えて情報が押し寄せてくるために、その奔流に耐え切れず身体が崩壊するのだろう。


 は? つまりどういう過程で死んでるんだ? 物理的には死んでいないのだから説明のしようがないぞ? 全く意味わからんな。これはスキルをゲットするまでひたすら死ぬしかないな。


 更に死んでみると、耳の爆発音というのは正確には脳がはち切れているような感覚に近い。脳の処理能力以上の情報量に押し潰されて、ショートして爆発するする感じだな。だからなんだって感じだが、これはなんかヤバイ気がする。



 ……今、十回ほど死んだとこなんだが、この作業、かなりしんどいぞ。なんというか、爆発音の通り、体が爆発して霧散するような感覚があるのだ。そしてその後ゲームのシステムにより再構築されるのだが、その感覚がなんとも奇妙なのだ。


 壊れた、しかもバラバラになった筈の体が次の瞬間には元通りになっているのだ。まあ、俺の意識の中ではだからある程度のラグはあるだろうが、それでも変な感じだし、正直言って気持ち悪い。


 しかも、体が徐々に慣れてきたのか、体に入れることのできる情報量が増えてきて、それを上回らなければならないため、より大きい衝撃になるのだ。まるで薬物中毒のようだ。だが、まあ、久しぶりの死に戻りだ、リハビリとしては丁度いいだろう。死を経験してのみ人間は生を感じることができるのだから。




 ……ただ今五十回くらい死んだところだろうか。やはりこの死に方は今までと違う。なんというか自分の存在感を否定されるというか、ぐらつかせてくるのだ。自己破壊と自己再生の繰り返しによって、気づいたら形が変わっているような、そんな感じだ。


 まるで粘土で作ったものを一旦グチャグチャにして再び作り直しても全く、同じ形は再現できないような、そんな感じだ。恐らくこのゲームは最初に型をとって、またそこに流し込むような感じなのだろうが、それは本当に同一個体なのだろうか。


 そんなことを考えさせられた。そして、俺の死はまだまだ続いた。



 なんのスキルも獲得することができないままに。

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