第375話 似て非なるもの


「うむ、それはじゃな、世界の神秘とはまた違うやつじゃのう」


 爺さんの元へ行って、自分が体験したこと、感じたことを説明すると、開口一番に言われた言葉がそれだった。


「は?」


「だから、それは世界の神秘ではないんじゃ。それは世界をありのまま感じ取った時に起きる現象でな、最初はよく起きるものじゃな。じゃが、注意せねばならぬ。その時の体はいわば器のようなものじゃ。小さなものならいくらでも入るが、大きすぎるものを入れようとすると、容器がこわれるのは自然の理じゃ。

 だから、普通は師匠の監督下の元でするんじゃが、お主はそれを一人でやってしまうとは……つくづく規格外じゃのう」


 なんか最後の方に貶された気がするが気にせずにいこう。なるほど、そういうことだったんだな、あれはまだ世界の神秘なんてものじゃなく、ただの世界だったというわけか。


 んー、まあ、確かに余裕だなーとは思ったが、そう簡単に上手くはいかないかー。


「え、じゃあ世界の神秘を感じるためにはどうしたらいいんだ?」


「うむ、お主ならそうなるじゃろうな。じゃが、まだ早いの。時期尚早じゃ。まずはもっと先の感覚を養うのじゃ。もっと大きく、そしてもっと広く感じ取れるようにするのじゃ。因みに儂はお主がどこにいても分かる程度には鍛えてあるぞ? まあ、もっと励むことじゃ。一朝一夕には行かぬものじゃからな」


 うん、早いと時期尚早ってダブってるから二回も言うなよ。あと、どこにいても分かるってキモいな? ってことは俺が隠遁を使っててもバレるのか? もしそうならば隠遁の更に上位互換を早く見つけなきゃだな。


 でもまあ、先に世界の神秘とやらを見つけてからか。


「分かった。ならさっさと見つけてくるぜ、世界の神秘をな」


「お、おい待たぬか! その前に感覚を広げるのじゃよ! っておい、行くでない! まだ今日の飯がまだなのじゃ、おい、おーい!」


❇︎


 ジジイの言葉は無視して結構。それにまた俺に飯を食わせようとしてたな、もう絶対に化け物に餌やりなんかはしないぞ。


 よし、取り敢えず街に戻ってきたのだが、師匠の言う通りに地道に感覚を養って、強化する。なんてことはしない。そんな暇じゃないし、そんなチマチマ頑張れないからな。作業は退屈なんだ。


 だから俺は一気に感覚を身につける。幸い、さっき手に入れたスキルがあればできない、ってことは無いだろうからな。


 よし、試しにやってみるか!


 呼吸を整えて、意識を整えて、気を整える。自分を意識することで、感覚を広げ、その結果、自分を周囲に埋没させる。そう、この感覚だ。


「【己没同化】!」



 俺は、人通りの多い街の真ん中でスキルを発動した。



 ッッバーーーン!!



 俺は死んでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る