第374話 感覚


 雪山に到着した俺は山の斜面を一気に駆け上がり、その頂上で寝転がった。


「すー、ふー」


 なかなか悪くない感じだ。自分が沈んでいくような、周囲と馴染んで見失ってしまうような、そんな感覚だ。そう、世界の神秘を見つけるにあたって一番要らないものは自分自身なのだ。


 己を消しつつ、己の中に周囲のものを取り込む感じで同化していく。ただ、内側と外側、と言うふうに境界線を意識することもダメだ。ただただ、自分に取り込んでいってそれを観察する。


「【叡智啓蒙】!」


 スキルを発動した。すると、なんと言うことだろうか、とてもクリアに世界が入ってくる。完全にいないわけではないが先ほどよりも格段に生物の数が少ない。それによっていろんなものに意識を向けることができる。


 雪のきめ細かいものや、ほぼ氷になりかけているもの。地中の石や水分、土にだってそれぞれ個性があって、どれも一緒ではない。


「凄い」


 俺は無意識にこう呟いてしまっていたようだ。自分の中に入ってくるものどれもが唯一無二で、ユニークでオンリーワンなのだ。そしてそれらが綺麗に調和しているのも感じ取れるのだ。


 長年連れそった夫婦が無意識に気を遣いあっているような、そんな光景が見て取れる。自然は、いや世界は調和の元に成り立っているのだろう。それらが美しすぎるのだ。まるで一つの芸術のようでありながらも、普遍的な光景として受け入れられる。


 もっと見たい、もっと感じたい、もっと知りたい。そういう感情が自分の中から湧き起こってくる。その気持ちに素直に従って周囲と、自然と、世界とどんどん同化していく。自分という存在がひどくちっぽけに感じる。


 だがそれと同時に世界の全てが自分の手足のように感じる。どんどんと範囲が広がって、生物の息遣いも増えてきた。恐らく山の麓へ近づいているのだろう。


 土の性質も変わってきたし、木も俺の意識範囲の中に増えてきた。木はやはり生命力というか、存在感が強いな。呼吸して光合成をするのだからそりゃ強いか、より生きてるって感じだからな。


 ってことは、この範囲に人なんてものが入ってきた時には……


「うわっ!!」


 世界とのリンクが切れてしまった。人間のことを考えてたら、本当に入って来てしまったようだ。木なんか比べ物にならないほどの存在感、生命力だった。


 やはりそれだけ大きな存在なのだろう。そりゃ自然や世界に良かれ悪かれ大きな影響を与えてしまうし、その人間や人間が作ったものに囲まれたら世界の神秘なんて当然感じられるはずもなければ、ましてや触れられるはずもないか。



ーーースキル【己没同化】を獲得しました。


【己没同化】‥自分を消して、周囲と同化する。自分の手足のように感じて感覚可能域が広がる。熟練度に応じて範囲拡大。


 取り敢えず世界の神秘を感じれたから師匠のとこいくか。これでもう俺は仙人なれたかな?

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