第373話 生物


「すー」


 息を吐き出す。体の鼓動を消していくように、重心を下げて世界に同化していく。自分を殻にすることでありのままの世界をそのまま受け入れるのだ。自分を透明な容器のようにイメージをして、そこら中に溢れている世界という概念を取り込むのだ。


「って、無理ーー!!」


 土の中ってどんだけ生き物いんの!? あちらこちらから生物の息遣いが聞こえてきてそれどころじゃなくなる。そりゃ、数匹だったら俺も無視できるし、それが世界なのだと受け入れられるよ?


 でも、それが何千、何万、何億となってきたら話変わってくるだろ。もう、俺が虫にでもなってしまいそうだったぞ、なんせ虫に食われると錯覚したほどだったからな。


 やっぱり、土の中はダメだな。こんな所で集中できたらみんなここでしてるだろうけど、地下で仙人になった奴は恐らくいないだろうな。逆になれたらなれたらで凄いんだろうけど。


 師匠の真似するみたいで癪だが、やっぱり山がいいんだろうな、空気が澄んでて、生物の気配も薄まるし。生物って思ったよりも存在感あるだな、って改めて感じた。そりゃ生物に囲まれてちゃ世界の神秘なんて到底触れられないよな。


 よし、そうと決まれば早速いくか!


「あ、」


 そういえば、上に出る瞬間のことを考えてなかったな。別に俺は天駆あるから基本どこでもいけるんだが、急に土から人が現れたら流石に怖くないか? それにそれで土人間とか妙な渾名もつけられたくないしなー。


 よし、死に戻りしよう。


 ん? 死に戻りっていってもどうやってするんだ? 毒効かないし、剣を貫通スキル込みでやろうとしても狭くて剣も振れない。どうしたもんかな、スキル欄みてもどうにも死ねそうには無いんだよなー……


 あ、いや、厭離穢土でもキツイか。俺、いつのまにか即死無効持ってたからしなねーよな。いや、これを貫通を使えばいいじゃねーか。貫通って別に物理だけに限定してるもんじゃないだろうからな。


 それにしても自分に対して即死攻撃を使うってどんな奴だよ。もう、土の中に気軽に入るのはやめよう。


「【貫通】、【厭離穢土】」




 よし、広場に戻ってきたから今度こそ山に行こう。そうだな、生物の気配が少ない山と言えば、あそこが一番いいだろう。


 雪山だ。


 景色も白くて集中出来そうだし、生物の息遣いもしなさそうだ。だからこそそこで世界の神秘に触れられれば、それこそ仙人だな。


 よし、仙人までの道のりが見えてきた気がしたぞ! やはり人間はゴールをしっかりと見据えた方がやるきが出るんだな!


 待ってろよ! 仙人!!



❇︎


ーー名もなき旅人


「なかなか出てこねーな、何してんだ?」

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