第370話 世界の神秘
「なんじゃと!? お主もう既に解脱しておるというのか? ふっ、そこまでいうのならば見せてみるがよい。解脱をした者にはあるスキルが与えられるのじゃ。それを儂に見せることができれば認めてやろう」
この爺さん何熱くなってるんだ? 解脱って結構前に取得したスキルだぞ? 今更スキルの効果も覚えていないくらいだし、そんなもので仙人になれるならいくらでも見せてやるけどな。
「それでいいなら、【解脱】」
「なっ、本当じゃったわい……」
「な、言っただろ? それとこの世界の神秘って奴がなんなのか教えてくれよ。このスキル覚えたは良いものの、なんの使い道もないから、今の今まですっかり忘れてたぞ」
「お主、それを一体いつ取得したんじゃ……?」
え、そんなこと言われても全く覚えてないぞ? スキル欄的に、隠遁より後で厭離穢土よりも先に取ってるんだろ? 全くわかんねぇ。一体いつだよこんなものをゲットしたのは。
「いや、相当昔だから全く覚えてないな」
「それほどに昔か。いや、この解脱というスキルとはな、悟りを開いた者にしか与えられない特別なスキルなのじゃ。いつ悟ったのかも覚えていないお主ではその凄さが分からぬかもしれぬが、かなりのもので、この世界にも両手の指に収まるほどしかおらんのじゃ」
片手には収まらないんだな。まあ、十人未満ってだけでも凄いことか。
「いや、それよりも世界の神秘についての方が詳しく知りたいんだけど」
「皆までいうな。早まるでないぞ。世界の神秘というものは、悟りを開いたものでも限られた人しか触れることのできんものじゃ。それに触れたものは皆、等しく仙人と呼ばれるようになるのじゃ」
ん? ってことは、
「師匠も世界の神秘に触れてるってこと?」
「当たり前じゃわい! 儂を誰だと思っとる!」
「腹ペコただ食いジジイ」
「う、うるさいわいっ! もう、仙人について教えてやらんぞい!」
「まあまあ、落ち着いて、あまり興奮しますと血圧が上がりますよ? それにこれをお食べになられてください」
「ん? 血圧なんじゃそれは。おお、気が利くのう、苦しゅうないわい」
俺がそう言って差し出したのは先ほどのラーメンの残りの麺だ。麺にも毒が入っているのにしっかり効いてない。常に毒は効かないってことだな。それにしても血圧って知らないんだな。食べ物渡せば怒気も収まったし、ちょろいな。
「それで師匠、世界の神秘ってものはどのようにしたらふれられるのですかね?」
「うむ、世界の神秘というものは実は何処にでもあるものなのじゃ。路傍に生えてる雑草にもあるし、雲ひとつない晴天の太陽にも勿論ある。それに気付けるかどうかなのじゃ。
じゃが、それが案外難しくてのぅ。人は皆見たいものばかりを見て、聞きたいものばかりを聞き、知りたいものだけを知り、感じたいものだけを感じる生き物なのじゃ。それをいかに克服して感覚を広げ、微細なものが感じられるかが大事なのじゃ」
んぉ? おう。
なんかこのジジイ急に饒舌になったな。
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