第365話 王者


「キッシャァアアアアアーー!!」


 どうやら一定以上の距離に近づくと目覚めるようになっているんだな。まあ、そりゃ確定で眠っている状態から奇襲をできたら随分と楽になっちゃいそうだから、当然の仕様といえば当然だな。


 このキングサーペントの眼光はもちろんデトックス一匹に向いている。俺がその領域内に入っておらず、デトックスのパーティーメンバーとしても認識されていないからだろう。


 もし、俺がデトックスを回復とかしたりしたらもしかしたら狙われるようになるかもな。その時は隠遁で隠れよう。


 おっと、先に動いたのはどうやらヘビの方だ。この蛇はせっかちなようだな。デトックスに向かって一直線に飛びかかってきた。なかなかな速度で、その巨体から繰り出されているとは思えないほどだ。


 それに対してデトックスはカメであるため鈍重な動きしかすることができない。つまり避けることはほぼ無理だということだ。さて、どうする?


 ガギンッ!


 飛びかかってきた相手に対してデトは瞬時に甲羅の中に潜った。それによってヘビの噛み付き攻撃を防いだのだ。更に、相手が技後硬直と防御されて怯んでいる間に、再び顔を見せて毒を吐き出した。吐き出した毒は球状になっており、毒玉、とでも表現できるようなものだった。


 しかし、それを食らってもキングサーペントは特に食らった様子もなく、全く意に介していない。デトックスのメインウェポンである毒が効かないのはかなりまずいんじゃないか? やはり毒の格的に向こうの方が上だったのか?


『おい! 大丈夫か、デトックス!』


『心配には及びません。まだまだこれからですよ? カメはじっくり長く戦う種族ですから』


 思わず声をかけた俺に、そう返答したデトックスの後ろ姿は何故かとても頼もしく、かっこよくも見えた。


 亀は本来長寿の生き物で縁起が良いとされている。それはこの世界でも同じようだ。そして、デトックスもその例には漏れていないはずだ。現実の俺よりも長く生きていであろうデトは、様々な人生、いや亀生経験をして、幾つもの修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。これは安心してもいいかもしれないな。


 そして、その後の戦いは本当に地味だった。デトックスはひたすら相手の攻撃を耐えて、毒を繰り返し吐き続けていた。全く効果がないと思っていたのだが、ある時、急にキングサーペントがその毒玉攻撃を嫌がったのだ。


 そこからは早かった。何故毒が効き始めたのかは分からなかったが、嫌がった隙に毒で攻撃し続け、毒が回り、相手を死にいたらしめた。


 デトックスが勝ったのだ。


『凄いぞ! よくやった、デトックス!』


 思いの外俺もデトックスに肩入れしてたのだろうか。初めての勝利に思わず喜んでしまったのだが、デトックスはというと、


『ムシャムシャムシャムシャ』


 相手の亡骸を満足そうに食べていた。


 ……おい、俺の喜びの感情を返せよ。

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