第356話 大乱闘


 開始早々、二体が脱落してしまったこの蠱毒、だれが勝ち残るのか一時も目が離せない。


 今も、ウシ、ワニ、ムカデが自分の強さを誇示するかのように睨みを効かせている。先程までのドタバタに比べれば非常にゆったりとした時間が流れている。スピードタイプのモンスターがいなくなったということだろう。


 この中で次に早いのはおそらくウシだろう。それも含めて誰から動き始めるのか、そう思った矢先、


「キシーーー!」


 ムカデが突如。威嚇したかと思えば体の節という節から毒ガスを噴射し始めた。夥しい量と範囲だ。ムカデ自体はスケールでいうと他とはさほど変わりないが、長さがある。それを活かした大胆な一手だ。


 しかし、毒ガスを撒き散らされたせいで、俺の視界も悪くなってしまった。全くどうなっているのかわからない。もしかしたら霧が晴れると同時に勝負がついているかもしれない。


 期待と焦燥を胸に霧が晴れるのを待っていたのだが、ここは海底の下、つまり密室なのだ。なかなか霧が晴れない。


 そして、ついに晴れると、そこにはワニとムカデの姿だけが残っていた。ウシは毒にやられたのか、横向きに倒れたピクピクと痙攣している。単純に毒の威力だけでまけてしまったのだろう。いいね、蠱毒っぽい。


「あっ」


 倒れたウシに対してワニが凄いスピードで接近し、バリバリと捕食してしまった。それによく見てみると、ヘビもバッタも姿が見当たらない。恐らくこのワニによる仕業だろう。


 この蠱毒の間に連れてきてからは何も食べ物を与えていないので、相当お腹が空いていたのだろう。ん? ということは、ムカデもお腹が空いているはずであって、


「キシャァアアアアア!!!」


 うん、そりゃそうなるよな。ムカデ、ご立腹である。そして両者が互いに見合った。最後の一騎打ちが始まるようだ。


 先に動き始めたのはワニだ。先程の捕食シーンもそうだったが、意外とスピードが速い。カシャカシャカシャとトカゲのように足を動かしている。同じ爬虫類だからスピードも負けていないのだろう。


 スピードで撹乱してくるワニに対して、ムカデは不動、一切動いていない。そう、動かざること山の如しを素で体現しているようだ。動のワニと静のムカデ、綺麗に対比されている。


 ワニが攻撃を繰り出す。ムカデの胴体部分、頭から尻尾の丁度間よりも少し尻尾よりの部分に噛み付いた。ムカデは嫌そうな顔をしたが、尻尾側であるため、尻尾で攻撃すること自体も難しい。かなりきついようだ。


 ワニは噛み付いたまま、恐らく唾液で攻撃しているのだろう。ずっと噛み付いたままである。


「キッシー!」


 もう、限界だ。そういった鳴き声かと思ったが、どうやら違ったようだ。ムカデがなんとまるまり始めたのだ。


 まるでロールケーキのように、クルクルと巻かれていった。すると、胴体部分に噛み付いていたワニは堪らず離してしまい、吹き飛ばされてしまった。


 まるまって、大きな壁のようなタイヤのような姿になったムカデに対して、吹き飛ばされたワニ。俺にはムカデがロックオンしたように感じた。

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