第348話 修行結果


「ふぅ、」


 俺はワンルームに一人暮らしをしている。親からの仕送りもあるからそこそこ楽な暮らしをしている。


 だが、俺もゲームをしている身、しかも月額課金制だからそこそこお金は必要だ。だからいつも自炊をしたい、したいと思ってはいたのだが、結局コンビニ飯に落ち着いてしまう。


 そんな中俺は新たな道を切り開くことができた。そう、料理をすることができるようになったのだ。まあ、ゲームの中だけでだが。


 だが、そこで培った技術は無駄にならないと信じている。だからこそ今日は挑戦してみようと思う。節約のための自炊ではなく、努力の集大成としての料理をするのだ。


 さて、何を作ろうか。作るといっても外にモンスターはいないし、携帯端末を弄るだけなんだが、んー、婆さんに作ったカレーは小学生の頃に自然教室で作ったからなー。


 いや、だからこそ作る価値があるというものか。俺がどれだけ成長したのか見てみよう。


 まずは材料の発注だな。基本的な食材なら実店舗にいかなくてもここまでドローンが運んでくれるとして、熊肉なんてあるのか? 流石にあのキノコはゲームの中だけのもんだろうから、しいたけでも買っとくか。あとは人参とジャガイモ、あとは玉ねぎも買っとこう。


 そうだなー、ルーから作ってもいいとは思うが、それだと簡単になりすぎてしまうからな。あくまでも婆さんに出した料理を再現する方向で進めてみよう。それにしてもスパイスも取り扱ってるって凄いな。なんていう物流だ。


「よし、」


 これで材料は揃ったな。あとは調理にかかるだけだ。まずは下ごしらえといくか。まずは野菜からだな。


「おー、ゲームの時とそんなに違和感がない!」


 今までも何度かは自炊したことがあるのだが、その時とは全く違う。切る剣筋、いや包丁捌きに迷いがないのだ。一切の躊躇いなく切ることができるし、それが小気味良い音を出してくれる。


 料理って楽しいかもしれない。


 今まではゲームとリアルはどこか完全なる別世界と思っていたんだが、どちらも俺が体験している世界という意味では地続きの一本道だったんだな。


 まあ、それもそうか。異世界転移して帰ってくる主人公とかも異世界で身につけた能力を遺憾なく発揮していることが多いからな。それみたいなもんだと思えばいい。


 今までの三分の一程度の時間で野菜を切り終えた俺はそのままキノコ、熊肉、という風に全てをカットしていく。


 そして、すべてのカットが終わると、まずは野菜達を炒めていく。玉ねぎを飴色になるまで焼き、その後人参、ジャガイモを投入。いい感じに焼き目がついたらスパイスをぶち込んで炒める。


 次に、主役の熊肉を入れてあじを染み渡らせながら炒めていく。うん、この時点で非常にいい香りだ。ここで、水を入れて仕上げにかかる。


 俺は個人的にドロドロよりちょいサラサラが好きだから、気持ち水多めに入れる。だが、もちろんさらっさらも嫌だから、ここからしっかり水気を飛ばす。弱火でいい感じになるまで煮込むぞ。


「よっしゃあっ! 完成っ!」


 うむ、見た目もいい感じだ。適当にレシピも見ずに作ったが案外良さそうな見た目だ。どうなるうことやら……いただきます。


 うん、旨い。


 普通に美味しい。俺が作ったとは信じがたいほど美味しい。だが、まあ、そこまでだな。全国の母親が普通に作ってもこの味は余裕だろう。だが、食材の旨味を感じられる。熊肉の味がいいし、キノコの食感もいいアクセントだ。


 料理をしてわかったことがある。確かに俺は料理の手際が上がったり、変な恐怖心が消えて、楽しめるくらいには上達したと思う。ただ、あくまでも一般に料理が上手いとされるレベルくらいで止まっているようだった。


 まあ、そりゃそうか、これで一流シェフになれるんだったら、みんなやってるか。


 でも、普通に旨いぞ? ただ、死ぬほど旨くはないだけで。

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