第337話 スウプ
休日をもらったんだが、特にゲーム内で何かすることはなく、適当に家でゴロゴロしていた。なんであんなに二度寝って気持ち良いんだろうな。あと、昼寝。昼寝は本当に気持ち良いから是非おすすめだ。
❇︎
よし、今日からまた婆さんの所で修行だな。前回までで切り方をマスターして駆け出しから見習いへ昇格できた。次は何になるかはわからないが、頑張っていこう。
そうしてお婆さんのお店に着いた。
「いひひひひ、きたねぇ。今日から大変だから頑張るんだねぇ」
「はいっ!」
今日から大変なのか……ま、まあ昨日一日中ゴロゴロしてたし、おそらく大丈夫だろう。英気は十分養ってある。
「まずはスープからだねぇ」
「スープ?」
「食材を入れて煮込むだけだねぇ」
そう言って婆さんから指示されたのは基本的な野菜だった。これらをただ煮込むだけだろ? これのどこが難しいって言ううんだ? これくらいなら切る方が断然難しかったように思えるんだが。
「よし、完成しました!」
完成すると婆さんが徐に鍋に近づいてきて、一口。
「うん、やり直しだねぇ。全体的に少し長いねぇ」
うっ、まじか。やり直しか。最初のうん、に騙されたぜ。全体的に少し長いのか。良い香りがしたから火を止めたつもりなんだが、それではダメだったか。仕方がない、もう一度チャレンジだな。
「はい! 出来ました!」
今度こそできた。火を止めるタイミングも完璧だっただろうし、これで合格だろう。そんな気持ちで婆さんの試食を見ていたのだが、
「うん、さっきよりかはマシだねぇ。でもまだまだだねぇ。エグミがかなり残っているねぇ」
なっ!? まじで? 今回はまず間違いなくいけたと思ったんだが、これでもダメなのか? もう何処を改善すれば良いのかも分からないぞ?
「いひひひひ、私が一度お手本を見せてやるねぇ」
おぉ! やっぱり師匠といえばそう言うのだよな。そのお手本を見て、学んでいくんだよな。って、はや、もうできたのか。では早速、
「……うんまっ!」
あっ、そういえば俺まだ自分の味見してなかったな。味見してみるか。
「不味っ!」
なんでだ? 何故同じ食材を使っているのにここまで差が出るんだ? 俺のは婆さんのスープの後だからかもしれないが、エグミが酷くてとても飲めたもんじゃなかったぞ? 対照的に婆さんのはエグミが一切なく全てが完璧に調和していたぞ。
くそう、これを飲ませられたら、やるしかねぇな。絶対にあの領域までに達してやる。不幸中の幸いとして俺は今し方味見をすると言うことを学んだ。味見されすれば俺も大分上手くなるだろう。
「よし、これでかんs
「いひひひひ、やり直しだねぇ」
「えっ!?」
早くない? ねえ、早くない? もうちょっとくらい希望持たせようよ! 俺がどんだけ頑張ったと思ってんだよ。しかもかなり自信あったのに。
「何処がダメでしたか?」
「まだまだエグミがあるねぇ」
さっきと一緒じゃねぇかよー。ってことはなに、自分で原因究明と解決を同時にしろってことか? まあ、いい、やってやろうじゃねーか。
まずは一旦、前回の俺のを飲んでみる。ふむふむ、不味いな。続いて今回の俺のを飲む。ふむ、さっきよりかは断然旨いな。でも、これもちょーすっぱい奴を食べた後にちょいすっぱい奴を食べると甘く感じる現象なのだろう。婆さんのを飲んでみる。
やっべー全然違う。なんていうか目が覚める。自分が近づこうとしているから余計に凄さが分かるな。本当にレベチだ。よし、もう一回!
「いひひひ、やり直しだねぇ」
くそっ! だが、こうなることは分かってた。一回一回トライアンドエラーだ。常に変化を求めて原因を探るんだ。
「いひひ、やり直しだねぇ」
まだだ!
「いひひひひ、やり直しだねぇ」
くそ、確かに今回は不味いな。だが、不味いってことは今回のやり方はダメってことで今後しなければ良いってことだ。そうやって毎回経験値を積んでいけばいつかは……
「いひひひ、やり直しだねぇ」
「いひひ、やり直しだねぇ」
「いひっ、やり直しだねぇ」
・
・
・
「やり直しだねぇ」
くっそー、もう何回目だろうか。何度目かわからない買い出しと、何度目か分からない食材カット、ここまではほぼ無意識にできるようになっている。そして、ここからが本番、もう婆さんのスープはとっくにない。
「よし、これでいくしかない!」
「いひひひひ、合格だねぇ」
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