第332話 おうと


 正直な話をしよう。別に水操作なんて使う必要はない。先程だって、近づいた時点で剣で一突きだし、なんならその前のイノシシのように厭離穢土みたいなスキルを使えばなお早い話だ。


 つまり何がいいたいかというと、もういいってことだ。どうしても使えるスキルにしたかったんだが、モンスターを倒してみて改めてその必要性の低さを痛感した。ただ、面白さとしての存在価値はそこそこあるので、なんか退屈になったら使うかもしれない。


 もう一旦諦める。死ぬこともあれだけしたんだから取り敢えずはいいだろう。それよりも俺は重要なことを思い出した。そう、仙人クエストが全然進んでいないのだ。なんとなくもう一度言おう。


 仙人クエストが全く進んでいないのだ。


 なんとなくあの仙人が気に食わないっていうのと、緊急性に欠けるということで進めていなかったのだが、もうそろそろ進めてもいいだろう。


 でもいざ進めようとした時に何をすればいいのかわからないな。クエストを確認しなくては。



 「爺さんがお腹を空かせて待っている。山の麓へ行く」



 ……なんだよ、この文は、ふざけてるのか? しかもあのじじいずっとお腹空かせてるじゃねーか。どれだけ俺があいつに奢ればいんだよ。前だってドラゴンステーキなるものを何枚食われたことか。あ、でも暗殺ギルドにツケにしたんだったか。あの後ギルド行ってないから怖いな。もし、請求されたら依頼を受けまくるしかないな。


 でも、また奢るのも違うしなー。でも、クエストに書いてあるからどうしようもないもんなー。なんでこんなことになってるんだ? 仙人になったらクエストにまで干渉できるのかよ、これは俺も早くならないとな。


 まあ、俺が仙人になるのはいいとして、兎にも角にも飯問題、これを解決しないことには始まらない。これは必須条件みたいなもんだろうし、かといってアイツの為に頑張って依頼するのもどうかと思う。んー、


「あっ、そうだ」


 料理しよう。


 ぱっと見美味しそうなゲテモノ料理を大量に作って、それを食べさせよう。そうすれば俺の気持ちも晴れるし、師匠のお腹も膨れるだろう。それにあの人だったらなんでも食えそうだしな。


 そうだな、どうせやるならしっかりとした完成度でゲテモノとすら知られないほどのクオリティを目指したいな。というわけで料理修行の旅を目指すか!


 でも、料理の技術ってどこで磨けるんだ? 取り敢えずこの第五の街で一番有名なレストランか何かに行って、無理やり弟子にしてもらおう。どんな食材でも確保してくるって言えばいけそうだし、なんなら俺のアイテムボックスに入っている素材でどうにかいけないか?


 だが、まずはどの店に行くかも肝心だよな。田舎の小ちゃなこじんまりした店でもその店ならではの技術とか、もともと凄い所で働いてた人が経営してるとかあるかもしれないが、当たり外れが大きそうだからな。やっぱりデカイ所が無難だろう。どうせやるならガチでやりたいしな。


 んーでもそれがどこにあるかわかんないしなー。聞き込み調査と行きたいとこだが、街ゆく人に街頭調査も気が引ける。よし、ギルドに行こう。そしたら何かは教えてくれるだろう。



 はい、着いた。やっぱりハーゲンは速すぎるよな。ま、取り敢えずいくか。


「ごめんくださーい」


 なんか久しぶりだな。どこか古巣にでも戻ってきたような気分だ。相変わらずの屈強なマッチョ受付だし、雰囲気から懐かしい。早速聞いてみるか。


「すいません、ここらへんで一番美味しくて、大きなレストランって何処ですかね?」


「ん? お前は見ねえ顔だな。ここは暗殺ギルドだぞ? 冒険者ギルドじゃねーから帰んな」


「あっ、すいませんこれがギルドカードです」


 そうやら素で間違えられたようだ。俺がカードを見せると表情が一変した。


「お、なっ、Bランク? これはすまん。たまに間違えて来るやつがいるから、ついな。それより大きなレストランか? そりゃここ王都の王宮レストランが一番だろうよ。ただ、Bランクのお前さんが入れるかは怪しいな。せめてAランクからじゃないとな」


 え、ここ王都なの!?

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