第331話 忍者


 ちょっとした俺の手違いで怒らせてしまったイノシシは厭離穢土を使ってやってしまった。勢いあまって、ってやつだな。だって水操作で倒せると思ったのに倒せなかったんだから仕方がない。次からはもう使えないから気をつけないとだな。


 よし、今度こそ水操作を成功させたい。自前で水を用意しないといけないというのは盲点だったな。でも、俺水魔法とかもっていないから川や海、湖とかがないと無理じゃないか? そうなってくると水魔法でも獲得した方がいいのか?


「んー、あ」


 そうだ。氷ならいつでも用意してくれる子がいたな。


「アイス!!」


『んー、どーちたのーごちゅじんさまー』


 うん、相変わらずアイスは赤ちゃんだし可愛いな。こんな可愛らしい見た目をしてて使う魔法がえげつないとは誰も思わないだろう。アイスの機嫌は絶対にそこねちゃダメだ。


『急に呼び出してごめんな、ちょっとアイスに頼みたいことがあって。俺の手に少しでいいから氷をだして欲しくてな。できるか?』


『ぴーすおぶけーきだよー! はい、あいすぶろっくー』


 ピーズオブケーキ? 日本語で朝飯前っていう意味だったはずだが、どこでそんなことを覚えたんだ? 仮にどこかでその言葉を聞いていたとしても、意味が分かるとは思えないし、自分が知った言葉を喋りたくなるのはもう少し歳を重ねてからじゃないのか?


 もしかしたら、アイスはもっと歳をとっているのかもしれないな。それか、超天才なのか。まあどちらにしても可愛いのには変わりないから今まで通り愛でるんだけどな。


『おー! ぴったりだな、ありがとうアイス。なんか欲しいものがあればいつでも言っていいからな? 思いついたらまた今度教えてくれ、じゃーな』


『わかったー! ばーいばーい』


 何をねだってくるのか少し不安ではあるがまあ可愛い我が子みたいなもんだ。多少の無理は覚悟している。


 左手を見ると、そこにはまるで手袋でもしているかのような俺の手があった。少しでいいって言ったつもりだったんだが、アイスなりの気持ちだろうか、それともこれが本当に少しだと思っているのか……


 まあ、これで土台ができたな。あとは溶かすだけだ。


「【水操作】、ファイヤエクスプロージョン」


 おー、氷でも水操作が発動するか怪しかったが、いけたようだな。氷を爆発させたんだが一切飛び散らずに、一瞬で氷から水に状態変化した。なんかマジックでも見てるようで面白かった。


 よし、これで準備完了。あとはさっき存在ごと消してしまったイノシシにリベンジだな。水操作はスキルを発動させっぱなしでいいだろう。


「【隠遁】」


 姿を晦ませる。あとはイノシシを見つけるだけだ、あ、いた。


 後ろから影のように忍び寄る。気分は忍者だ。物音は立てようもないのに忍足に無意識になってしまうな。背後に回ったら隙を窺って、さっと手を鼻と口にあてる。後は水操作で覆うだけだ。


 ドサッ


 おおー。これは簡単に処理できるな!



ーーー称号《暗殺者》を獲得しました。



《暗殺者》‥音を一切立てずに相手を倒す。奇襲の成功率および初撃の威力上昇。


 そこは忍者にしとけよー。

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