第322話 切り札
「あら! まだ終わりじゃないのね。まだまだ楽しめそうで良かったわ。ところで、今の私の攻撃はどう対応したのかしら? スキルを発動してたようには見えなかったんだけど」
私がそう投げかけてもなんの返答もなかったわ。戦闘中にしてはかなり長い沈黙があったから答えてくれると思ったのに、残念ね。
「ふふっ、まあいいでしょう。知らないことがある方が面白いわね、私もそろそろ本気でやりましょう」
私にも第一回イベント優勝者としての意地があるから、こんなところでは負けられないのよ。それにまだまだ切っていない手札もあるの!
「【賢者魔法】、剣よりも強き言葉」
この賢者魔法というのは、賢者という職業についてから獲得したもので、魔法が諺になっているわ。この魔法を通して知った諺もあるくらいだから、なかなか凄いわよ?
「うぉっ!!」
この魔法は流石の彼も知らなかったようね。この魔法は不可視の斬撃が相手に襲いかかるものよ。今もなんで彼が避けれているのかは不思議だけど、それでも彼を追い詰めているようね。このままいけば……
「【従魔武装】! ハーゲン!」
ドクンッ
彼が何か言葉を発すると、ドクンッと響き渡るような音が聞こえたわ。なにかしら、この音は、と思っていると、目の前の彼に異変が起きた。
瞬く間に姿を変え、人の姿のまま獣の要素を取り込んだような姿になったわ。明らかに先程とは違う、猛者の匂いがするわね。
「あら、とてもワイルドで立派なお姿ね。それに溢れ出る猛々しいオーラ、まだまだこれから、といった感じかしら。私もその方が楽しめるわ」
そう、これからが楽しいところよ。今までこれほどまでに苦戦して、勝機が見えない相手は初めてだけど、だからこそ燃えるというものよ。やっぱりゲームは倒せない相手を倒そうとするのが一番楽しいわね。
「ふふっ、そんな怖い顔なさらなくてもいいのよ?」
彼は低い姿勢のまま、怖い顔で固まっていたから、声をかけたんだけど、今回もその返答はなく、弾けて飛び出すように私の元に接近して、蹴られそうになったわ。
私が魔法を展開しようとすると、
スッ、
「えっ?」
避けられたわ。まだ魔法を使ってすらいないのに、使う瞬間にその座標から避けられたわ。
私がその不可解な現象に頭の思考回路を奪われている間に、相手は私の腹部に強烈な蹴りを入れてきたわ。
「……っ!! やるわね。そうこないと面白くないわ」
カラクリは分からないけど、いよいよ危なくなってきたわね。ここから全力でいかないと……
「グルゥウウアアアアアアアアゥ!!」
彼が吠えたと思ったら、急に威力とスピードが上がったわ!? どういうこと? 野性の力に身を任せた、とでもいうの? こうなったらもう全力をぶつけるしかないようね。
「……流石にやるわね。ここまで来てるもの、確かにあなたは強いわ。だけど私にも負けられない理由があるの。絶対に負けられない理由が! 【賢者魔法】、山をも動かす信念! 力こそ正義!」
賢者魔法は二つともバフよ。前者は自分の想いの強さによって上昇率が変わり、後者はバフで上昇させればさせるほど、更にそれを上書きするというもの。このゲームでも恐らくかなりの高倍率のはずよ。
「【黒炎魔術】、黒炎爆趨」
私の切り札、黒炎魔術全てを飲み込む黒炎を生み出す。この超高倍率に加え最高峰の魔術、これで必ず倒せるはずよ!
「【vおう、gyあく、まhhう】、つァあああり、ボム」
ッッダーーーーーーーーーン!!
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