第323話 とある男の話


 俺は最近ゲームを始めたばかりの新参者だ。右も左も分からないままやっているがとても楽しい。俺はあえて攻略サイトとかを見ないでやるタイプだから時間はかかるし、遠回りすることもあるが、それこそがゲームの醍醐味だろう。


 そんな俺だが今日はイベントの観覧に来ている。たまにはこうして息抜きも大事だろう。自分よりも強い人の姿を見てそれに憧れてまた頑張ろうと思う。そうしてやっていくうちに自分もいつしか強くなる。そんなことを思いながら見ているが、


 今回のイベントはいつもと違って頂上決定戦という、このゲームの中でもトップの人たちで争っているイベントらしい。これまで、それこそ俺がゲームを始める前からの、長い期間で予選を行い、そして今回、このゲームの覇者を決めるようだ。


 俺もこの場所に立ちたかった、そう何度思ったことだろう。だが、この人たちは読んで字の如くレベルが違う。ステータス的な面もそうだが、プレイヤースキルもどこか隔絶したものがあるのだ。


 今回の試合について、戦うのは第一回と第三回のイベント優勝者であるらしい。どちらも優勝する瞬間を見ていたわけではないが、第一回の方はそれは凄いインパクトを残していったそうだ。


 当時始まったばかりの勢いのある中で、待ちに待った初めてのイベントということもあって注目度も高まり、かなり盛り上がっていたらしい。そんな中、華々しく優勝した彼女は多いに注目を浴び、最強の名を手に入れた。


 その反面、相手の彼は特に情報がなく、イベントでは、予選は凄かったらしいが決勝ではヌルッと勝ち、よく分からないまま終わったらしい。圧倒的最強と謎の人物の戦いはとても見応えのあるはずだ。見逃さずに録画もしておこう。なんせ最高峰の戦いなんてそうそう観れる機会なんてないからな。


 おっとそろそろ決勝戦が始まるようだ。俺は何か学べるものがないか、盗めるものがないか強くなるために見るのだ。ただ、見てすごいって思うのもいいかもしれないが、強くなりたいのも事実。自分なりの仮説と実験を繰り返していつしかオンリーワンなプレイヤーになるんだ!


「3、2、1、」


 ついに始まる。このゲーム最高峰の試合が、このゲームの王者を決める試合が。


「GO!!」


 ッドーーーン!!!


「……は?」


 今何が起こった? 気づいたら第三回の男の方が第一回の女の前に現れた壁に頭から刺さっているんだが。ん? どういうことだ?


 と思った矢先、男は距離をとり、女は魔法を放った。その魔法を一身に受けたが男は一切意に介していない様子だ。ん?? どうなっているんだ? 展開が速すぎるぞ?


 俺が困惑しているとまた戦況が動いた。何やら女が唱えると、男が急に動き始めたぞ? 何かから避けている? かなり緊迫しているようだが、こちら側からすると一人で踊っているようにしか見えないぞ?


 あ、終わった。男の一人踊りが終わったぞ。と思うのも束の間、今度は男が何かを叫んだ。すると瞬く間に男の姿が変貌していき、そこには……


「かっけー……」


 俺は見惚れてしまっていた。その、人魔一体ともいうべき姿は明らかに人ならざる者でありながら人の姿を保った状態になった男はそのまま女を追い詰めていく。ここで初めてまともなダメージが発生したようだ。


 だが、男の勢いはそのままどんどん女を追い詰めていく、だが、それに対して女は一度距離を取るという選択肢を選んだ。そして、二人がそれぞれ言葉を発した。それもとても対照的な雰囲気で。すると、



 世界が崩壊した。



 気づくと俺は街の広場にいた。俺は夢でも見ていたのだろうか。だが、周りに俺と同じように困惑した人々が大勢いる。どうやら白昼夢じゃなかったらしい。それは良かった。


 俺は世界が崩壊する前に一瞬だけ見てしまった。二つの太陽が激突するのを。



「ちょっと攻略サイト見てこよう」




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