第321話 胸中(別視点)
視界が切り替わると、そこには最後の相手が立っていたの。立ちはだかる強敵をいとも容易くなぎ倒しここまで来た相手だわ。私の妹もずいぶん前のイベントで赤子の手を捻るようにやられていたわ。
その相手は何か考え事をしているようで、どこか焦点が定まらない目で虚空を見つめているようね。私なんて眼中にないってことかしら。そして、今、その相手とようやく目があったわ。
「あら、やっとこっちを向いてくれたわね。ずっと考え事をしているみたいで寂しかったわ。決勝戦、同じ世界に立つ者同士お互い頑張りましょうね?」
「ん? 同じ世界……?」
あら、彼は私のことを見たことが無いようね。私は彼を見た時、一目で分かったというのに。そう考えると、少し寂しいわね。
「ふふふっ、あなたも私と一緒でしょ? 同じ修羅の道を歩んでいる。これは強者に至る為の道、どちらが真の強者かここで決めましょうよ」
「なっ……!?」
やっぱり驚いているわね。私が修羅の道を歩んでいることもそうでしょうし、彼がそうだと私に知られていることも驚いている内容でしょう。
さて、試合前の談議はこれくらいにしておきましょう。私とて油断はできないのよ。彼の実力は未だ底が見えないの。どの試合を見てもどこか手を抜いているというか、余裕があるように見えるわ。だから、気を引き締めていきましょう。
「3、2、1、」
初手でどう来るかで粗方分かるからね、様子見といかせてもらうわよ?
「GO!!」
「【パキケファロ頭突き】っ!!!」
相手の彼は試合が始まった瞬間、頭突きを繰り出して来たわ。イチゴといい、この彼といい、先手必勝が好きなの? 必勝なんて言ってるけど初手こそ一番集中している時だから、当たらないわよ。だけど……
「あら、危ない。大地魔術【瓦解土崩】」
間に合うか心配だったわ。ただ、ブラフも忘れずにしなきゃね。
「ふふふっ、イチゴの雷鳴魔法の方が早かったわね。これなら、案外余裕かしら?」
そもそも人間の移動速度と魔法をくらべている時点でおかしいのよ。そりゃもちろん魔法の方が速いに決まってるじゃない。
ただ、彼の頭突きはスピードもそうだけど威力も桁違いなの。だから、イチゴの時と同じ速度重視の大地魔術じゃ防ぎ切れないと思って防御力重視の魔法にしたから、間に合うかが不安だったの。まあ、間に合って良かったわ。
「あ、」
ん? どうしたのかしら、なにかあった顔をしているわね。あの顔は恐らく何かを忘れていた顔だわ。この状況で何かを忘れるってことは、間違いなくスキルしか無いわね。スキルで忘れることといえば、それを使うための条件であったり、それの副作用かしら。
でも、彼は普通に使った後にあの表情をしたから、恐らく代償となる何かがあったのでしょう。あれだけのスピードとパワーをノーリスクで行えるとは到底思えないからね。となると、代償としてもっともありがちなのは反動かしら。
頭突きをしてその結果反動がくる。というのはかなりしっくりくるし、それを忘れてしまっていたなら説明がつくわね。まあ、この予想が外れていても動揺しているのは確かなことだから、ここで揺さぶるしかないわ。精神攻撃でもなんでもするわよ!
「あら、顔色が優れていないわね。なにかあったのかしら? 呆気なく終わるのも味気ないけど、勝ちにいくわよ? サンダーボルテクスっ!」
そこで私はイチゴが使ってた速度が速いサンダーボルトの上位互換、サンダーボルテクスを撃ったわ。でも、どうやら彼には効いていないみたい。どういうことなの? 確実に攻撃は当たっているはずよ?
確かにサンダーボルテクスの威力は他の雷鳴魔術に比べると弱いですがそれでもかなりのダメージのはずよ? 一体どんな仕掛けがあるの? 分からない。それに少し魔法のリキャストがかかるわ。どうにか時間稼ぎををしないと……
「あら! まだ終わりじゃないのね。まだまだ楽しめそうで良かったわ。ところで、今の私の攻撃はどう対応したのかしら? スキルを発動してたようには見えなかったんだけど」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます