第319話 実況中継
従魔武装すると気持ちがハイになって、まともな思考ができない。高揚感や開放感、爽快感などは強いが、全てを本能のままに行なっている感じだ。今、俺は思考分割でどの難を逃れているがどうしたものだろうか。
というのも、しっかり頭を使おうとすると上手く感覚が使えていない気がするし、そういって感覚を鋭敏にしようとすればするほど、自分の中の野性味が強くなってくるのだ。
「……」
もう、いいや、面倒臭い。本能の赴くままに全てを任せよう。最悪、この分割思考でセーブはかけられるだろうし、もう振り切るしかねぇ。そして本能的に動いたのをこの俺が記憶することで平常時の俺に何らかのフィードバックをすることができるかもしれないしな。
よし、もう手綱を放そう。全てを解放するんだ!
「グルゥウウアアアアアアアアゥ!!」
え、何か気持ち悪い叫び声が聞こえるんだけど。ちょっと待てよこれ誰の声だよ……はい、俺ですね。流石にこの状況下で逃げ道はないから諦めるしかない。それに、平常時の俺にフィードバックとか言ってたけどこりゃ無理だ。平常時に叫びたくはない。
あ、飛び出した。もう、この俺は傍観者に徹する。記録しようとか思わずただただ見るんだ。
まず自分の羽を使って推進力をブーストして、相手に接近、そしてすぐさま自分の右前足の爪を使って斬撃を繰り出した。だが、それは避けられた。しかし、もう俺は反撃に移っている。斬撃を生み出した勢いを使って、いつのまにか生えていた尻尾を、体全体を回すことで当てた。そしてその攻撃は見事に的中。流石に相手も予想外だったか?
お!? 俺が大きく後ろに跳躍して距離を取った。どうしたんだ? と思ったのも束の間、俺が元いた場所は数瞬後、炎の爆炎に包まれていた。
何という嗅覚なんだ。間合い管理が完璧じゃねーか。こんなの俺が平常時でできるわけないんだよな。羽ブーストもそうだし。唯一斬撃は剣を使って真似できそうではあるけど、それはただの斬撃だからな。
再び俺が接近した。今度は先ほどよりも速い。恐らくスキルを使っているのだろうか、韋駄天走と羽のブーストを使っているのだろう。これは速すぎる、制御できる気がしない。
そしてその勢いのまま相手に突っ込んで頭突き。これは流石に相手も土魔法で壁を割り込んできたが、その壁に激突した俺はそのまま前転? のようにくるっと回り、そのまま背後に回り込んで斬撃を放った。
はい? いま何がどうなった? さっきはとっさに前転って言ったがそれは足元にある地面に対して行うものだろう? だが俺は地面から生えてる壁に対してそれをしたぞ? 普通は勢いと重力で一回転できるんだろうが、この場合勢いは完全に別ベクトルだからな。どこかでベクトルを変更したのか、それとも何らかの力で体を浮かせたのか、なんにしても謎すぎる。普段の俺ならしようとも思わない動きだぞ?
ってか、今思ったけど相手もなかなかしぶといな。もう既に結構攻撃をくらっているはずだろう? 今頃倒れていても何ら不思議はなさそうだが……
「……流石にやるわね。ここまで来てるもの、確かにあなたは強いわ。だけど私にも負けられない理由があるの。絶対に負けられない理由が! 【賢者魔法】、山をも動かす信念! 力こそ正義!」
相手がまたもや聞き慣れない、だが先ほども行使した魔法を発動した。そして続けた。
「【黒炎魔術】、黒炎爆趨」
相手がそう口にした瞬間、俺は寒気を感じた。これはかなりやばめのものがくる気がする、大丈夫なのか?
その魔法は相手から飛び出し一直線に俺の元に到達し、爆ぜる。かと思いきや、俺は俺にしか聞こえないであろう小声で、
「【vおう、gyあく、まhhう】、つァあああり、ボム」
そして、刹那とも、数時間とも思える時間が流れ、
ッッダーーーーーーーーーン!!
二つの爆炎が激突した。
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