第318話 従魔武装


「あら、とてもワイルドで立派なお姿ね。それに溢れ出る猛々しいオーラ、まだまだこれから、といった感じかしら。私もその方が楽しめるわ」


 俺がこの姿になっても全然余裕そうだな。これが強者の余裕ってやつか。確かに俺も初撃は防がれたがまだまだ手札はある。その多くはまだ使ったことないが多分いけるだろう。この従魔武装も初めてだしな。


 このスキルでハーゲンと一体化したことで、どうやら俺には野生の本能が付与されているみたいだ。感覚が研ぎ澄まされていて、視覚、嗅覚、聴覚、触覚が強化されている気がする。味覚は分からないが。


「ふふっ、そんな怖い顔なさらなくてもいいのよ?」


 どうやら俺はとても怖い顔をしていたようだ。だが、今ので俺は新たな事実が分かった。それは、相手の喋るタイミングが分かるということだ。


 一瞬意味がわからないかもしれないが、この姿になったら嫌でもわかるはずだ。感覚が強化されたことで膨大な情報量が頭に押し寄せてくるのだ。


 その結果なのか、脳が個別に思考することをやめ、自分が取得した情報を総合的に判断して本能的に行動を取ろうとするようになった。動物の知能が低いというのはこれが原因なのだろう。生き残る為に感覚を強化し、不必要な情報を遮断する為に全てを本能のままに任せているのだ。


 なるほど、つまり人間は感覚の強化の代わりに文明を手にしたのか。


 うん、自分でも何言ってるのか分からない。ハーゲンが入ってきたことでどうやら俺もキメラ属性になっているのかもな。今は目の前の敵に集中しろ。


 先程の話に戻るが、喋るタイミングが分かるというのは、相手が喋る為に息を吸う、その音が耳から聞こえるし、僅かな気流を感知できるのだ。正直今がわからないし、考えようともしていない。俺が今こうやって考えられているのは分割思考のおかげだ。


 そして、魔法使いの相手に対して喋るタイミングが分かる、というのは大きなアドバンテージになりうる。それは魔法発動の瞬間がわかるということであるから、それにすぐさま対応することが可能なのだ。


 よし、攻撃開始だ。


 俺の全身の姿は分からないが、見える腕とかは体毛が増え、爪が伸びている。太くもなっており、単純に俺の攻撃力が上がっているはずだ。


『ハーゲン、俺は翼の使い方は分からないからお前に全て任せるぞ」


『分かったっす!』


『いくぞっ!』


 低い姿勢のまま飛び出し、軽くジャンプをして前足で蹴りを入れようとした。すると、


 スッ、


 息を吸う音、流れる空気を感じた。近くにいるから先程よりもより鮮明に聞こえるし感じる。


『ハーゲン!』


『もちろんっす! 右に旋回するっすよ!』


 息を吸うということは相手が何らかの魔法で対応しようとしているということ、つまりその時点で回避ないし移動すれば理論上当たらない。何故なら魔法発動には座標を指定しないといけないからな。


 そして、ハーゲンのアシストも完璧だ。蹴りを放った俺は完全に体の制御を失っている。そこで羽をハーゲンに操作してもらうことで後出しすることができる。しかも右に旋回は俺の希望通りだしな。流石ハーゲンだ。


「えっ?」


 相手も俺の予想外の動きに翻弄されているな。そして、そのまま俺は空中で右に旋回して勢いを使ってシンプルな蹴りを与える。横っ腹にミドルキックお見舞いした。


「……っ!! やるわね。そうこないと面白くないわ」


 蹴りを与えるとすぐさま距離を取られた。また仕切り直しのようだ。だが、攻略法は見えてきた、徐々に詰めていくぞ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る