第308話 矛と盾


 ふぅ、なんとか勝てたけど、正直今回は相性が良かった。私とお化けの相性は最悪だけどそれのおかげで対抗策を用意していたのが功を奏した。


 それに、相手本体の力が弱いというのもあった。お化け達の動きを止めた後、相手を直接倒しに行ったとき、相手が強かったらその時点で負けていたはず。今回はかなり運が良かった。


 それでも勝ちは勝ち、これをしっかりと活かす。次も絶対に勝つ。



「3、2、1、GO!!」


「お嬢ちゃん! 良くここまで勝ち上がって来たな! 割と最初の方から注目はしていたが、まさかここまで勝ち上がってくるとはな、なかなかやるじゃねーか。

 ん? なんで注目していたかって? そりゃ、俺と正反対のプレイスタイルだからだよっ!」


 そういって、目の前の心も体も身軽そうな男が飛びかかってきた。


 私と正反対のスタイル、正にそういうべき存在。私も試合前に少し調べたんだけど、この人は第二回イベント優勝者で拳闘師のアッパー。拳闘師とはその名の通り拳で闘う人のこと、身軽なステップで相手を翻弄して、己の拳を刺しに行く。


 そう、まるで蝶のように舞い、蜂のように刺す、を体現しているかのようだ。


 それに対して私は盾使い、相性は良いはず。相手の攻撃を防ぎきって相手に反撃を加えることができれば私にだって勝機はある。


 でも相手は第二回の優勝者、かなりの猛者。最初の方のイベント優勝者は後半の人たちに比べて強いとされている。その中で相手は第二回、私みたいな防御重視の人達を何人も倒してきたに違いない。そして、私は第八回……大どんでん返しを見せるしかない。


「お嬢ちゃん、心此処にあらず、って感じだけど、やる気はあんのかい? オラっ!」


 私が戦闘に集中してないことがバレてる。雑念がある状態で勝てる相手じゃない。目の前の戦闘に集中しないと。


「【超反応】!」


 このスキルは10分間反射神経を超良くしてくれるスキル。この戦いは短期決戦になるはず、最初から出し惜しみはしない。


 右、左、右、右、左、右、左!


 常に牽制で撹乱してくる。それも無視するとかなりのダメージが入るため、一つ一つ対応していかないとダメ。でも、少しでも反応が遅かったり、対処が甘かったりすると、


「……っ!」


「どうした嬢ちゃん、守りが甘くなって来てるぜ? まだまだここからだろ?」


 きっちり見逃さずに差し込まれてしまう。自動防御を使ってもいいが、あれも時間制付きだし、相手が攻撃してくる限り反撃が出来なくなってしまう。


 でも、このままだとジリ貧。どうしよ、どうしよ。


「どうした? ヘイヘイ! もう終わりか? 意外とこの盾もしょーもなかったんだな!」


「くっ……!」


 まずい、このままダメージをくらい続けるのは流石に厳しい。もう、使うしかない。


「【自動防御】!」


「ほう、それで全てを守ると、だがそれもいつまで保つかな? 俺と我慢比べと洒落込もうじゃねーか!」


 相手のギアが上がった。まだ相手は全然本気じゃなかった。悔しい、盾がしょーもないって言われたのも悔しい、私が上手く使えてないからだ。私がもっと上手く使えれば……


 でもこのままじゃ、反撃もできないし、ただ負けるだけ。やっぱり私は人と戦うのが苦手だしまだまだ弱い、少し強くなった気になってただけ、どうせ私なんかじゃ無理。


 ……いや、無理じゃない。まだ何かやれるはず、小刀で反撃出来ないなら、それ以外の方法で攻撃すればいいだけ、私には盾がある。


「【反射】!」


 これで相手に攻撃をしたら自分もダメージを受けてしまうということを教える。


「へー、そんな手もあるんだな。じゃあ、俺は攻撃ができないな、ってなるわけねーだろ! そんな強力なスキルが何度も使えないってことはもう知ってんだよ!」


 やっぱりバレてた。少しでも攻撃を躊躇して欲しかったけど、流石に無理だった。なら、


「【ハードカウンター】、【筋力増強】、【シールドバッシュ】!」


「なにっ!?」


 相手の攻撃を受け流して、そのまま盾で重い一撃を食らわせる。相手が拳闘師だからこそ効果的技。成功すると、相手が一瞬硬直し、さらに次の一撃が重くなるという、結構強い技、もちろんその分隙や再発動までが長いのが玉に瑕。


 ここに来て、今までで一番最高の、そして一番大きなダメージを与えた。これは会心の一撃。


「へー、やるじゃねーか。ここまで勝ち上がって来ているだけのことはあると、まあなかなか楽しませてくれたな。だが、もう充分だ、終わりにしよう」


 会心の一撃を食らわせて満足している私の前に立ちはだかった相手は獰猛な笑みを浮かべていた。どうやら全く本気じゃなかったらしい。


 そして、スキルも使い切って再発動まで時間がかかる私は、なす術もなく一方的にやられてしまった。

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