第302話 力 


「第一回頂上決定戦を開始します」


 おー、ついに始まったかー。この日を待ちわびていた気もするが、あっという間だった気もするな。でも楽しみにしていたのは確かだからな。全力で楽しもうと思う。


 そもそもこのイベントは今まで定期的に行われていたものとは一味違う。今までのイベントは、言うなればこの大会の予選みたいなものだ。その公式イベントの優勝者のみこの舞台に立つことができるのだ。


 まあ、そんなこと言ってる俺はこの大会があることすら知らなかったんだがな。優勝しておいて本当によかった。なんせこのゲームの中でも最高峰の人たちと戦えるってことだからな。ワクワクしかないよな、俺の力がどこまで通用するのか非常に楽しみだ。


「あっ」


 どうやら前の試合が終わったようだ。俺は四試合目だからもう三回戦が終わったようだな。せっかくなら試合も見ておけばよかったんだが、寝坊してしまって、さっきログインしたばかりなのだ。非常にもったいないことをしてしまった。


 まあ、そのおかげで相手の種を知らない状態で戦えるから面白みは抜群なんだけどな。まあ、お楽しみの方が楽しいからいいか、終わったことウジウジ考えても何も始まらないからな。


 そんなことを考えていると、目の前に広がる景色が、パッと切り替わった。どうやら俺はコロシアムの中にいるようだ。コロシアムで殺し合う……


「よしっ!」


 目の前の敵に集中する。相手は大きな、それこそ身の丈よりも大きな大剣を背負っている。しかもそれはプレイヤーが小さいとかではないのだ。プレイヤーはむしろ大きく、かなりゴツい。ただ、それよりも圧迫感のある大剣、なるほどこれはかなり強敵の香りがするぞ。


 そのプレイヤーの見た目は三十代くらいだろうか、かなり渋い顔で髭も生やしている。ハリウッドスターっぽさと日本人っぽさをいい感じにハイブリットしているなこの人。いわゆるイケメンだ。本来の姿はわからないが、こういう完成度の時だけリアルそっくりとかなんだろう。よし、勝とう。

 

「よぉ、お兄さん。お兄さんはあまり見ねえ顔だよな。最前線にいるわけでもねえのに、イベントには優勝してここに立っている。どんなカラクリがあるかー知らねーが、この俺と相棒の前では全て無意味ってことを教えてやるよ。漢は力が全てってことをよなぁ」


「3、2、1、」


 漢は力が全て、か。確かにそれは一理あるかもしれないな。それが本当かどうか検証してみるのもありかもしれないな。力、ちから、筋肉……あっ。


「GO!!」


 力といえばこれしかないでしょ!


「【筋骨隆々】」


 無限な魔力を使って筋肉を肥大化させ、体を大きくしていく。筋肉には種類があり、遅筋と速筋とがあるらしい。持久力の遅筋で、パワーの速筋ってイメージで良さそうだ。


 今回はもちろん速筋だ。力こそパワーだ。全力で立ち向かう。


「おらぁああああ!!」


 相手が大剣をほぼ引きずりながら俺に向かって突っ込んできた。確かに力はあるようだ。あれだけの大剣をほぼ地面スレスレとはいえ、少し浮かせ、その状態でかなりの速度を出しているな。素直に凄い。ただ、俺も負けていられない。


 筋肉の出力は断面積の大きさで決まる。つまり、長さではなく太さだ。俺は追加で筋肉を肥大化させる。明らかに最初の見た目と変わってきている俺を目に少し動揺が窺えるが、それでも躊躇わずに大剣を振りかぶり、俺を一刀両断にしようとしてきた。なんていうパワーだ。


 だが、流石に俺に当てるには遅すぎるな。そんなにゆっくり振ってたら俺が対象を定めて力を込めて、今日の晩ご飯のことを考えてからも殴れるぞ? よし、やっちゃおう。心の中でマウントとっても仕方ないしな。行動あるのみ!


「【魔闘支配】」


 ついでに魔闘支配を発動して、闘気十割を拳に宿す。もしも倒せなかったら速筋の俺は不利になるかもだから念には念をってやつだな。


 そして、まだ振り下ろしている途中の剣筋から外れ、顔面を思いっきり殴ってやった。


 グシャッ


 あ……これぞ正しく、力こそパワー。

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