第295話 美しき対比


「うむ、その顔は気に入ってくれたようだな。これは間違いなくハマると確信していたからよかった」


 うん、男なら嫌がる奴はそんなにいないだろう。


「では、早速次に行くぞ? まだまだあるからな。人生ある程度したいことをしてきたつもりだったが、こんなにも楽しいことが眠っているとはな。本当に楽しくてやりたいことっていうものは自分からは掴み取れないものなのかもしれぬ」


 このお爺さんなんか深いこと言ってる気がする。確かに俺もこのゲームも今の状況も自分から掴み取ったというよりは受け身で、気づいたらって感じだった。でもとても楽しいし、ハマっている。人生っていうのは案外偶然で成り立っていて、自分で掴み取ることができるものって相当限られているのかもしれないな。


「ん? 次に行くぞ? そうだな、選定のやり方として似たようなもの掛け合わせる同類手法と、対照手法に分かれるのだ。そして珍しいのだがある明確なビジョン、ゴールを持って行うストーリ的手法というのがある。一番初めに行ったのがまさにこれだな。まあ、例外はあるのだが、大方の選定はこの範疇に収まる。そして、次はとても綺麗な同類型になりそうだ」


 へー、そんな名前が付いているのか。もしかしたらこの世界には数多くの、とまではいかないが何人かの選定人がいそうだな。みんな個性や趣味嗜好が違くて同じスキルでも結果が異なったりしそうだな。掛け合わせるのとかもその人の癖が出るだろうし、その点でいうと俺はこの爺さんといい感じにマッチしているから良かったな。


 それにしても綺麗な同類型っていうのはなんだろう、確かに気になるな。この説明を冒頭ではなく、何回か選定が終わった今更に思い出したようにぶっ込んできたってことは、思い出させるほどのインパクトがあったのだろう。


「今回は龍化と竜纏じゃ。こんなにも美しく綺麗に対比している選定は私の過去にも指を数える程しかなかったはずだ。成功は確信しているのだが、それほどのものになるかは正直想像がつかんくてな。私もドキドキであるな。では、行くぞ」


「【龍化】、【竜纏】が統合されます」



ーーースキル【龍宿】を獲得しました。



【龍宿】‥龍をその身に宿す。龍の姿になることも人の身のまま龍の力を得ることもできる。程度も自在に変化可能でどの形態であっても技は行使可能。今まで倒してきた龍、竜の姿、力を発現可能。再使用可能時間は24時間。


「なっ!?」


 つ、強すぎる! これかなりぶっ壊れスキルじゃねーか? 再使用時間が一日になってるけどそれが気にならないくらいに効果がやばい。龍化から竜纏まで好きな形態を自由に程度変えながら使えて、さらにどの状態でも技は問題なく使えますよってチートだろ。人の身でブレスとか撃てたらアツすぎるよな! いろんな意味でな。


 正直まだ竜纏使ってなかったからちょっとと思わなくもなかったが、そんなことどうでも良くなる程にいいスキルだ。これからは格上と戦うことも楽しくなりそうだな。イベント終わったら本格的に悪魔狩りするのも面白そうかもしれない。


「お主の顔を見ればもう満足しているのが分かる。私も非常に満足しているのだ。予想以上の出来だが、気に入ってもらえたようで何よりだよ。それにこんな素晴らしい機会をくれたことに感謝している。ありがとう」


 おっと、謎に感謝されてしまったな。どう考えてもお礼を言うのはこちら側だろうに。


「こちらこそこんなに素晴らしいスキルを選定してくださってありがとうございます! これから、大切に使っていきます!」


「うん、是非そうしてくれ。いつかお主の活躍が私の耳に届くことを期待しているぞ。では次の選定に行こうか」


 ん? 今ので終わりじゃなかったのか? どうみても終わる流れだったし雰囲気だっただろ。とても強いスキルをゲットしてお互い感謝の気持ちを述べ合ってこれからのことについて言ってるのにまだ続けるのか。気まずくないのかよって、全然そんなことなさそうだし、むしろやる気に満ち溢れてるなこの爺さん。


 まあ、俺にとっても良いスキルゲットできることはいいんだけどな。


 恐らくこの爺さん、やりたいことがあったらすぐにしてしまいたくなるんだろう。楽しみを後に取っておく、という概念が一切ないようだ。まあ、それもそれで楽しそうな人生だけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る