第292話 オートマニュアル


 選定の前にしないといけない説明?


「私が行う選定には二種類あるのだ。それは僭越ながら私が独断と偏見で選定する方法と、選定される本人が自らの意思でもって選定を行うという方法だ。これら二つを私はそれぞれ、オートマとマニュアルと呼んでいる」


 ん? オートマとマニュアル? それ完全に車のやつじゃねーか。なんちゅう名前つけやがるんだこいつは。しかもそれをドヤ顔で言ってくるあたりがなんとも言えない殴打衝動を掻き立ててくるな。まあ、車が存在しないこの世界なら仕方のないことだろうし、現実世界も今はほとんど電気自動車の自動運転だからな。


 今では一部の物好きしか乗り回していないし、それにもしもの時にはセーフティが発動するようになっている。因みにこの知識は絶滅危惧種の父親から聞いた話になる。最近のはスリルが足りないからといって古い車を買っていたのは衝撃だった。


 父曰く、車とはやるかやられるか、らしい。


 一体、何をやろうとしているのか息子に説明して欲しい。


「どうしたのだ?」


 おっと、流石に過去への追憶が過ぎたようだ。今はオートマとマニュアルを選択しなければ。


「すいません。ただ迷っていただけですよ。とりあえずオートマで一通りやってもらった後に、マニュアルでするかどうかを選択していきたいと思います」


「そうか、分かった。だが選定というのは後戻りできない不可逆の行為だ。だから、選定の前に毎回説明と許諾を取らせてもらう。面倒臭いが一生を左右することであるから協力して欲しい。また、その時に気に食わなければ変更するもよし、選定しないのもよしだ。

 ただ、オートマとマニュアルの違いについて説明しておこう。オートマは私の長年の経験から確実に強くなれる選択肢を提示可能だ。しかし、その反面、考えが凝り固まっておるとも言えるし、その考えがお主と合わない可能性もあるのだ。良くも悪くも無難で堅い選択肢ということじゃな。

 一方、マニュアルは私が予想もつかない化け方をすることもあるが、弱体化してしまうこともある。まさにセンスと運が試されるとも言えるの。こちらはハイリスクハイリターンとなっておる。

 これを踏まえて選定に臨んで欲しい。できるかの?」


 ほうほう、そういう意味ならオートマとマニュアルの名前も幾分かはしっくりくるな。体裁上では一応爺さんとなっているが、恐らくAIが自動でやってくれるのだろう。それが自分とも合わない可能性もあるが概ね強くなるし、失敗はないと。いわゆる模範解答ってやつだな。


 それに比べてマニュアルはハイリスクハイリターンであると、なかなか難しい選択だが、どちらにせよ一通り爺さん、もといAIの意見を聞いてみた方が良さそうだな。どのくらいの出来か分からないし、もしかしたら俺に無茶苦茶マッチするかもしれないからな。


「分かりました。では一通りオートマで行いたいと思います。もし違うと判断した場合にはマニュアルに切り替えますので悪しからず」


「うむ、それはもちろんだ。お主が後悔しない選択をしてくれればそれでいいのだ。私からすればこれほど上質なスキルをこんな大量に見せてくれただけでも価値がある。私もかなりのスキルを見てきたと思っていたがまさかこんなにも知らぬスキルがあるとはな、まだまだ修行が足りていなかったようだ」


 どうやら爺さんに少なからず影響を与えてしまったようだ。まあ、いいことであるなら大丈夫だし、悪いことでも知ったこっちゃない。


 それにしても楽しみだな。まるでテーマパークのアトラクションに乗るかのよな気分だ。今までの過程がまるで列に並んでいて、今やっと最前列にきて乗れるような感覚だ。しっかり楽しもう。


「では、始めるぞ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る