第286話 無限


 研究者の爺さん曰く、スキル選定人は灯台の見える家にいるという。


 しかし、港町に着いた今、海の方を見渡してみても一切、灯台らしきものを見つけられない。灯台ってのは港にあるものじゃないのか?


 正直、現実世界で灯台というものを生で見たわけではないから、もう既に見えているのに気づけていないということもあるかもしれない。ただ、大体のイメージはついている、白くて高い建物だろう? それは残念ながら見えないのだ。


 どうするべきか、とりあえずもう少し沖の方まで行ってみて探してみるか。


「ハーゲン!」


 うん、久しぶりだな。ハーゲンがオークモナークと死闘を繰り広げたあの時から、なんとなく呼び出すのを控えていたんだが、流石にもう充分に休んだことだろう。


『久しぶりだな』


『ご主人様! お久しぶりっす! 今まで何してたんすか? 俺っち暇で暇でずっとみんなで模擬戦してたっすよ?』


 模擬戦……従魔同士でってか? そんなシステムあるのかよ。じゃあスカル、ボーン、アシュラ、アイスまでもが参加してたというのか?


『それは俺の従魔全員でか?』


『そうっすよ! 全員で魔法とか撃ち合ったり実戦形式で戦ってたっすよ! 流石に俺っちがまだ一番強いっすけど、アイスの魔法は凄いっすね!』


 お、おう。もう何も言うまい。取り敢えず沖の方に連れて行ってくれ。


『分かった。では今から海の上を飛ぶぞ、久しぶりにハーゲンの上に乗るが大丈夫か?』


『もちろんっす! 早速いくっすよー!』


 そう言って俺がハーゲンに乗り込むとハーゲンは久しぶりで喜んでいるのか、ものすごい速度で発射した。俺も久しぶりだったから体が置いていかれそうになったが、なんとか持ち堪えた。


 かなりGがかかったが、以前よりも強かった気がする。どうやら休んでいる間にもハーゲンは強くなっていたようだ。それに新しく装備をつけた影響もあるかもしれない。脚力も上がりスピードも増しているのだろう。


 ハーゲンは攻撃手段でもあるが本職は移動手段だからな。その性能が上がるのはこちらとしても嬉しい限りだ。


 おっと、ハーゲンばかりに意識が向いていたが俺の目的は灯台を探すことだったな。しっかり探そう。だが、ないぞ? かなりの速度で飛行しているのだがそれでもなかなか見当たらない。ずっと同じ景色が続いている。



 ……ない。よし、一旦帰ろう。もう随分沖にまで出てきているだろう。こんなに出てきても見えないならこれ以上先はもうないはずだ。戻る為に後ろを振り返ると、そこには港町は無かった。正確には見えなかった、と言う方が適切だろう。左右前後みてもどこにも見えない。どうやら水平線の向こうに沈んだようだ。


『ハーゲン、全速力で帰ろう』


『うっす!』


 先ほどよりも速いスピードで戻るとあっという間に港町が見えてきた。ハーゲンの速度は一体どうなっているんだ? 速すぎだろ。


「あっ、」


 俺の視界に入ってきた港町のさらに向こう側にある山の中腹になんと白いボディをした細長い建物があったのだ。


 そう、灯台が見えたのだ。


 おいおいおい、灯台ってそっちにあるのかよ。まあ確かに海から見えないとだから海側にあるのはおかしいか。それは分かるが山にあるのもおかしいだろ。何の目印になっているんだよ。


 ん? いや待てよ? ということはそれが見える家って……


 無限にあるくね?

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