第285話 手段と目的


「お主が強くなる方法じゃと?」


 俺が爺さんに強くなる方法を尋ねると、そのまま鸚鵡返しにされた。恐らく俺の質問の意図を図りかねているのだろう。なんせ強くなるには戦闘をしていればいいのだからな。


 それは誰もが知っている共通の事実であるにもかかわらず、俺がこうやって質問をしているという意味を考えているのだろうな。


「そうだ、今すぐ強くなる為の方法が知りたい」


 ここで俺は更なる条件を付け加えた。今すぐ、というものだ。これでなぜ俺が質問しているのかも分かっただろうし、返答もしやすくなっただろう。


「今すぐか……なぜ、お主ほどの者が今すぐ強くなりたいのかが一番気になるのじゃが、一旦それは置いておくかの。恐らくレベルを上げてステータスを上げる、というのとはまた違った強化をしたいのじゃろう? それでいて即効性があるものとなると……」


 爺さんは思いの外真剣に考えてくれている。なんかこういうのは地味に嬉しいよな、困ってくれる時に助けてくれるのが真の友人理論、だな。


「それなら、儂の知り合いにスキル選定人というものがいるんじゃが、そいつの所に行ってみるか? そいつは礼儀も愛想も知らんからそこまでおすすめはせんがの」


「スキル選定人?」


「そうじゃ、お主のスキルを見定めて、最適な形にしてくれるのじゃ。ただ、お主のスキルを全部見せなければならんため信頼関係がないときついかもしれんの」


 確かにそうだ。今の俺のスキルは正直俺でも把握しきれていないほど多くのスキルがあるからな。それをサッパリ整理してくれるのはありがたい。


 だが、信頼関係がないと成立しないのも分かる。全部公開されたら対策も立てられるし、なによりプライバシーがなくなってしまう。流石にそれは避けたい。


 でも、かなり魅力的なんだよな。つまり、俺がどうにかそれを利用する方法を探らないといけない。方法は二つあるな、一つは信頼関係をどうにか構築するか、もう一つは口を絶対割らせないか。


 俺としてはできれば信頼関係を築きたいのだが、場合によっては手段を選んではいられないかもな。まあ、なるようになるか。取り敢えず当たって壊そう。


「分かった。取り敢えずその人の元に行ってみたいのだがどこにいるんだ?」


「そいつは変わり者でのう。海が好きと言って南の港町に住んでおる。場所は灯台が見える最高の場所、と言っておったが儂も行ったことがなくてのう。頑張って探すのじゃ」


 おいおい、知らないのかよ。まあ、知り合いっていう程度ならそこまでは知らないか。俺も知り合いの家知らないもん。ってことは、俺がその灯台の見える家っていうのを探さないといけないのか。まあ、灯台なんだからわかりやすいだろう。ただ、分かり易すぎてどの家からも見えるとかはやめて欲しいぞ。


 それにしても港町か、懐かしいな。ハーゲンの休養ついでにクラーケンを倒しに行ったきりだったっけな? いや、その後にも行った気がするが、忘れたな。まあいいや。


「よし、分かった。なら、自分で探すとしよう。情報提供感謝する。悪魔に関しても見つけ次第倒しておくから気長に待っててくれ、では行ってくる」


「おい、悪魔をついでみたいに言うでないぞ! 悪魔を倒すことがなによりの目的じゃぞ!? っておい! 老人の話は最後まで聞かんか!」


 面倒臭くなると、その場から離れたくなるんだよな。逃げるのは恥かもしれないが非常に役に立つ。逃げるのは良くないという風潮があるが、俺はいいと思うぞ。したくないことはしないに尽きる。


「おぉ」


 久しぶりの港町に到着した。今回は走りたい気分だったから走ってきたが。その街並みに驚いた。以前来た時よりも随分発展している気がする。人々も活気に溢れて街全体がとても良い雰囲気だ。


 この街は第一、第二のようにナンバリングされているわけではなく、ただ港町として存在している少し他とは違う異質な街だ。そこに何かしらの意味があるとは思うのだがよく分からない。


 よし、わからないことに頭を使うのはやめだ。俺がしないといけないのは選定人の居場所を探ることだ。それに頭のリソースを全て使おう。



 って、灯台ってどこにあるんだ??



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