第273話 暗闇
その後も壁にぶつかったり、穴に落とされたり、何かをぶつけられたりしながら俺はずっと進んで行った。すると、
ーーースキル【暗視】を獲得しました。
【暗視】‥暗闇の中でも視界が少し開けるようになる。
なんと、スキルを獲得したのだ。これのおかげで俺はもう落とし穴に引っかかったり、壁にぶつかったり、毒矢にささったりしなくなった。今まで俺がどんな罠に引っかかっていたのか、答え合わせをしているようで面白かった。だが、暗闇独特の興奮というか、開放感や楽しみは失われてしまった。
やはり人間は視覚に頼り過ぎているのだろう。視界があるだけで安心するし、視界がないだけで恐怖に陥る。もし、嗅覚だけを奪われたらどうだろうか? 少なくとも俺は鼻詰まりして嗅覚が機能しなくなっても普通に一日を過ごすだろう。やはり人間は視覚だけを特別に扱っている気がする、つまり贔屓されているのだ。
俺は贔屓が嫌いなのだ。先生に贔屓されたもん勝ちの雰囲気は大っ嫌いだ。というわけで視覚よ、元に戻ったからといって油断したな? またおさらばだ。
「【貫通】!」
ふはははは! これでまた視覚の時代は終了した。それにその命は俺が握っているしな。これで再び暗黒時代が幕上げだな。やはり暗闇はテンションが上がるな、小さい頃停電した時に無性にワクワクしたのを思い出す。
そうして俺はそのまま暗闇の中であんなことやそんなことをしていると、
ーーースキル【闇視】を獲得しました。
「スキル【暗視】は【闇視】に統合されます」
【闇視】‥暗闇の中でも通常の視界を得られる。
くそっ! なんだよこれは! 運営の視覚に対して圧倒的な忖度が感じられるぞ! 人が楽しく暗闇で壁を殴って壊したり、爆破して壊したり、脆弱化させて壊したりしてたのになんてことだ! 建築物を壊すという日常生活では忌むべきことも暗闇の中なら平然とできるのに、またもや視界を確保された。しかも完璧な視界だ。それのせいで、もはや壊したいという欲求も起きなくなったぞ。
恐るべし、視覚。
また貫通させてもいいのだが、そこまですると俺が視覚に対して過剰にかまっているという贔屓になりそうだからな。もうやめておこう、見えてしまったせいでなんか興醒めしたしな。
もうこのままゴールを目指そう。もうここでやるべきことは大方終わっただろうしな。
そう思って改めて通常の視界で当たりを見渡すと、そこには悲惨な光景が広がっていた。壁は壊され通路にも穴が開き、もうここは一体なんなんだと言いたくなるような景色が広がっていた。こんなにも俺は壊していたのかと半ば驚愕した。これも暗闇の仕業なのだ。凄いな。
そのまま適当に歩いていると、急に視界が明転し、気づいたら闘技場のような場所にいた。
どうやらいつのまにかあの階層を抜け出していたようだ。前の階層は迷路のようなものだったのだろうか? 全然迷路として楽しんでいなかったが、新しい迷路の楽しみ方を提案できたのだ。これでいいだろう。
「ギャアアアアアアアアア!!!」
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