第267話 変化と進化


 契約が完了した後に俺は皆に見送られながら魔法陣に乗った。皆それぞれ違う表情だったが、悪い感じじゃなく俺も気持ち良く去ることができた。


 そして、とうとう俺は次の階層へと向かった。もう何度目だろうか。っていうのも何度目になるか不明なほどだが、もうすっかり慣れたホワイトアウトを経て、俺は円の形をした場所の縁の部分に立っていた。後ろを振り返ってみると、そこには何もなく奈落が続いているようだった。


 つまり、落ちてはいけないということだ。ということは何かとここで戦うのだろうか、ミノタウロス戦のような感じだろうか。もう一対多が多すぎたからここいらで一対一は大歓迎だ。痺れるような戦いをしたい。


 しかし、今のところその戦う相手がおらず、ただ俺が一人ポツンと立っている。いや、俺の反対側に何かあるような気がするがよく分からない。もっとよく見えるように近づいてみると、それは鏡だった。俺が映っているのだが、鮮明には見えず、まるで黒で塗り潰しているような感じだ。少し不気味な感じだ。


 バリンッ!!


 俺が眺めていると突如鏡が割れた。


 黒く塗りつぶされた俺が突如鏡の中から現れたのだ。どうやら俺はコイツと戦わないといけないようだな。まさか、自分と戦うことになるとは。面白そうだな、相手からみた自分というものを観察、研究できるな。


 そんなことを考えていると突如、真っ黒な俺が襲いかかってきた。武器は何も持っておらず拳で攻撃しようとしている。その攻撃を避けながら俺は考える。俺が未来予知を持っているようにコイツも持っているのではないか。そして持っているのならば、俺は果たして攻撃を避けられるのだろうか、と。


 俺の未来予知を予知されたらどうなるんだ? もし仮にされたとしても俺も予知し返すことができるんじゃないか?


 そう思っていると、何も予知が発動しなかった。予知をお互いに持っていると無限に予知し続けられるため、それを防いでいるのだろう。まあ、俺はミノタウロス戦でスキルに頼らない戦い方も身につけているからな。


 ってあれ? この力も身につけているのか? もう今までの俺を完全にコピーしているってことじゃねーか。まあ、鏡だから当たり前か。強いて言うとするのならば、左右が違うことくらいか。でもそれは相手がサウスポーになってるってことで、俺の方が戦いづらく相手にとって有利に働いている。


 それにしてもここまで全く同じように再現されてしまうとどう勝てばいいんだ? 勝ち筋が見えないんだが。全くおんなじ実力で違うのは左右だけ。スキル、ステータスが同じなんてどうすればいいんだ?


 俺が貫通を使おうにも相手も使ってくるし、そもそも相手も同じステだから攻撃も当てづらい。これはどうすればいいんだ? 負けることも無ければ勝つこともできない。


 先ほどからずっと肉弾戦を繰り広げているのだが、埒が明かない。


 この全く同じステータスの相手に勝つためには、俺がこの戦闘中に強くなるしかないようだな。恐らく鏡に映っていた時点での俺のまんまだろうから、そこから俺が変化、もしくは進化することができれば勝機が見出せるかもしれないな。


 それに恐らく、相手は何かしらの思考ルーティーンが設定されているはずだ。そうでなければ動くことすらできないだろう。そしてその設定は俺を倒すこと、に違いない。だから俺は相手を倒すこと、を目標にせず、強くなることを目標に行動していく。そうして変化をつけ続けていって最終的に勝利するのだ。

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