第266話 契約


「服従、ですか……?」


 相当戸惑っている様子だな、そういう文化は吸血鬼には無いのだろう。まあ、俺ら人間にも無いし、殆どの種族はないだろうがな。


「そうだ、そうすればいつでも俺は召喚できるし、任意でお前に帰ってもらうことも出来るからな。それならお互いに楽だとは思うが」


 正直なところ、俺はここへの道のりを知らないのだ。勝手に帰らずの塔によって飛ばされただけだからな、いつ戻ってこれるのかも分からないのに、一緒に旅立つなんて流石に無責任過ぎるだろ。


 だから、服従という方法を提案したのだが、そんなに乗り気では無いようだ。恐らく誇り高い吸血鬼という種族が、人間という自分よりも下の種族の者に下るのが無意識のうちに抵抗があるのだろう。


 まあ、気持ちは分かるが俺も無責任なことはしたくない。後、面倒臭そうっていうのも本音ではあるな。急に同行人が増えると意外なストレスになるかもしれないし、俺はプレイヤーだから生活リズムも違うだろう。俺は誰かに合わせることが苦手なんだ。だからずっと一人でプレイしているってのもあるしな。


 どうやら相当迷っているようだ。悩んでいるのがそのまま伝わってくるほどの表情をしている。だが、覚悟を決めた表情で遂に、


「わ、わかり


「そういうことなら、召喚はどうさね?」


 婆さんに遮られた。


「服従はもう決定的に上下関係が決まるさね、別に孫はそれでも良さそうだが評判は良くないさね。それに、言うことも好きに聞かせられるから、それが心配さね。

 でも、召喚なら対等にお互いの信頼で契約出来るさね。それなら上下も関係なしに鍛錬だけを行えるさね。私が使えるようにしてあげるから、そうするといいさね」


 婆さん、急に割って入ってきたかと思えば滅茶苦茶ナイスな提案じゃねーか。それに有用そうかスキルくれるっていってるし、太っ腹過ぎるだろ、最高かよ。


「それはいい提案だな。俺はスキルも貰えるし、それで全然構わないんだが、お前はどうする?」


「それでお願いします!」


 少し嬉しそうにしているな。別に俺もどうしても服従させたかったわけじゃないし、嬉しい結果に終わったな。


「では、まずお前さんに渡すさね」


ーーースキル【召喚】を獲得しました。


【召喚】‥信頼関係を築いた相手の許可を得て、相手を召喚する。屈服させて召喚することも可能だが、その場合MPを消費する。召喚される相手は拒否や任意で帰還可能。


「上手くいったさね。では、やり方を教えるさね、体の一部を接触させてその後にお互いの名前を言うさね。その後召喚する方が契約、と唱えれば完了さね」


 なるほど、意外と面倒臭いぞこれは。まあ、お互い信頼関係が無いと出来ないし、有れば簡単に出来る絶妙なラインなのだろう。では、するか。


 俺が拳を突き出すと、向こうも拳を出してぶつけて来た。


「ライトだ、よろしくな」


「カイトです! よろしくお願いしますっ!」


 少し緊張しているようだ、俺もしているが見ていると微笑ましい気持ちになるな。それに名前もまさかの一文字違いとはな、案外こうなる運命だったのかもしれないな。


「契約」

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