第263話 死ぬこと死なれること
抗魔の森、モンスターもでない聖なる、そして静なる森の中にぽつんと二つの墓標があった。
「ちょっと二人のお休みを邪魔してもいいか?」
この言葉は一瞬、不謹慎に聞こえるかもしれない。だが、ここまで俺を連れてきた婆さんにはその意味が分かっていたようだ。
「本当にそんなことが出来るのかい? 私も何年も研究や努力を重ねたが、無理だと諦めたさね。まあ、あんたがやってくれるなら私がやらなくてもいいってことだからね、さっさとやりな」
一人で喋っていると思ったら急に急かしてきたな。まあいい、久しぶりだがやってやろう。しかし、こう人の為にするのも変な気分だな。よし、
「【死霊魔術】、蘇生」
「お、おぉ」
婆さんが感嘆の声をあげた。俺が魔術を発動すると、そこには夫婦と呼ぶのに相応しい二人が立っていた。
隣を見るとあの婆さんが音もなく泣いていた。必死に堪えようとしているのだろうが涙が溢れてしまったのだろう。それも仕方ない、何年ぶりかの再会でしかもずっと会いたかった二人が目の前にいるのだ。そりゃ泣くなという方が難しい話だろう。
目の前の当の本人達は何が起こったのかいまいち分かっていないようだった。死んでいた状態から蘇生させられたら、眠りから目覚めた感覚になるのだろうか。もしそうなら、二人にとって自分達が生きてた頃の日常は昨日のことのように感じるのだろうか。
これが事実なら絶対に死んだ方がお得だろうな。自分が死ぬ分には後悔は多少あるかもしれないが、流石に死んでたら諦めがつくし、そもそも死んでいる状態で物事を考えることなんて出来るのだろうか?
それよりもこの婆さんを見て分かるように、誰かが死んで一番辛いのは残された側だ。正直死んだ方からすれば葬式も何も分からない可能性の方が高い。それでも皆葬式をするし、故人を偲ぶのだ。
それは残された側の気持ちの整理なのだろう。葬式をすることで気持ちに踏ん切りをつけ、心を切り替えてまたいつも通りの日常を歩む為に行うのだろう。
俺の場合は誰にも知られずに静かに死んでいきそうだけどな。
「どうしてこんな所に居るんだい、お母さん。ここはどこ? 家内もここに居るなんて、みんなどうしたんだい? 一旦家に戻ろう」
やはり自分が死んでいたとは夢にも思っていないようだな。寝て起きたくらいの感覚なのだろうか。
「あんた達は一旦家へお戻り、私はこの人と少しお話があるからさね。くれぐれも寄り道するんじゃないよ」
婆さんがそういうとその二人はそのままこの場から去っていった。やっぱり婆さんは凄い立場なのだろう、理由も特に言っていないのにここまでいうことを聞かせられるんだからな。
「まさか本当に生き返らせることが出来るとは驚いたね、もしかしてあんたは私なんかよりも全然強いんじゃないかね?」
婆さんはこちらに向き直り、そう言ってきた。続けて、
「あんたにはいろいろ言っておかないといけないことがあるさね。例えば、あの二人が死ぬ直前の記憶を持っていなかったことや、そもそも何故死んだのか、といったことさね」
まあ、確かに言われてみれば気になるな。
「なんさね、その顔は! どうでもいいならもう何も話さないよ!」
やべ、興味無かったのバレてら。
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