第262話 過去と墓


 親を蘇生しよう、といっても親の亡骸がどこにいるか分からないからな。これは流石に息子に聞くか。


「おい、お前の両親の墓はどこにある? こんなクソガキの親の面がどうなってんのか見てみたくなったな、一体どういう教育をしたんですかー? ってな」


「親の墓なんてねーよ、殺した後のことなんて知らねーしな」


 ほう、この息子は親の墓のありかさえ知らないのか。絵に描いたような奴だなコイツは、まだまだガキだから更生可能だとは思うが、それには俺じゃなくて絶対両親からの方がいいからな。


「というわけで婆さん、コイツの親の墓は何処にあるんだ? いるんだろそこに、気配だだ漏れしてんぞ。孫のことが気にかかるのは分かるが、それはちょいと過保護すぎやしないか?」


「なっ、お婆様がいるのか!? お婆様! 何処にいらっしゃるのですか?」


 やはりコイツは気づいてなかったようだな。婆さんはかなり気配を隠していたからな。俺の場合は看破があるから見破れただけだが、まあ、どうせ来ているだろうとは思っていた。


 何故なら、息子を殺してもいいと言っていたが流石に孫を殺してもいいっていう人はいないだろう。あれは殺す気でやっていいってことだったのだろう。もしもの場合は自分が止めに入るつもりとかだったのだろうな。


 まあ、自分の子供が孫に殺されたものの愛すべき存在なのは変わらないからな、どうにか更生してほしいと思ったのだろう。それにこのままじゃ死んじゃうしな。


 俺がそうやって虚空に呼びかけると、先程まであっていた老婆の姿が現れた。やはり、この婆さん現役時代は強かったのだろうな。潜伏能力一つとってもかなりの高水準だ。


「クックック、まさかバレているとはねー、お前さんの実力を私は見誤っていたようさね。私に気づいたのだから息子の墓の位置くらい教えてやろう。なんつったって私が弔ってあげたんだからね」


 婆さんはそのままついてきな、と言って去って行った。


 まさか、自分の息子とその妻を自分が葬儀していたとはな……


 その時は流石にあの婆さんと言えどもへこんだのではないか? それも孫の手によって殺されたんだからな。かなりキツイ、複雑な心境だったのだろう。今はもう吹っ切れて孫に愛情を注ごうとしているのだろうが、もう今更何をすれば良いのかってところだろうか。


 婆さんについていくと、深い森に着いた。いかにも薄暗く何かが出そうな森だ。婆さんはその中へと躊躇うことなく入って行った。俺もそれに続いて行ったのだが、ある所で急に婆さんが立ち止まったのだ。


「ここは私たち吸血鬼にとってある意味特別な場所でね。抗魔の森と呼ばれていて、魔獣や吸血鬼達も入ることが出来ない場所なんさね」


 そう言って婆さんはとても優しそうな慈しみの眼と、とても悲しそうな哀愁を漂わせた眼の間のような眼をした。この森で何かあったのだろうか。


「だから私はここに二人の墓を建てたんさね。誰にも邪魔されずにゆっくり休んで欲しかったからね。その為に私は命を削りながらこの森に何回も何回も、墓をたてた後も何度もここにきて孫の話をしにきていたのさ。

 だがここは抗魔の森、私は入るたびにどんどん吸血鬼としての力を失って行ったのさ。もう、今ではすっかり弱ってしまったがその分楽に入れるようになったからよかったさね」


 そう言って婆さんは笑った。この婆さんにそんな過去があったとはな。改めてあの中坊から言われた、お前には関係ないだろ、の言葉が俺にのしかかってくるように感じた。あいつもあいつなりにいろいろあったのかもしれないな。


 だが、こんな気分が滅入る話はやめだ。これが現実世界ならお涙頂戴もんだが、ここはゲーム世界だ。なんでもありってことを見せつけようじゃないか。


「ちょっと二人のお休みを邪魔してもいいか?」

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