第261話 先輩面


「なんっ、なんだ、お前はっ……!?」


 もうかれこれ何時間もこの粋った中坊を相手にしていたら、とうとう根をあげたようだ。まあ、中坊と言えるほど俺も歳老いてる訳でもないが、この吸血鬼も現実世界だと中学生か高校生くらいだろうからいいのだ。俺の方が人生の先輩なのだ。


 それにしてもコイツも可哀想だ。急に現れた変な奴にわけも分からずボコボコにされ続けているのだからな。俺が相手の立場だったら泣きたくなるぞ。そろそろ種明かししてあげた方が良いかも知れないな。立ち直れなくなるのも違うしな。


「ようやく会話が出来そうな面構えになったな。まず一つ、この世にお前より強い奴は腐るほどいる、まだまだガキのお前が調子に乗るんじゃねぇ」


「ちっ、うっせーな! 俺に説教しに来たのかよ! そんなこと言われなくたって分かってるっつーの! いちいち部外者が首突っ込んでくんじゃねーよ!」


「分かってて年上の吸血鬼に喧嘩売ろうとしてるのか? もしそうなら相当なバカか命知らずかアホかマヌケか身の程知らずだな」


「くっ……!」


 俺が館に入った時に言われた言葉をそっくりそのまま言い返してやったら、それに気づいたのか悔しそうに俯いている。やはりメンタルは中坊だな、メンタルはおられて強くなるものだ。逆境を乗り越えた先に栄光が待っているんだぞ。


「そういえばお前は両親を殺したようだが、なんでお婆さんは殺さなかったのか? 無理だと思ったのか? 彼女も殺せないくらいで他の吸血鬼に挑もうなんてどう見てもアホのすることだぞ?」


「な。何を不謹慎なことを言っている! 私の祖母は吸血鬼一の魔女と呼ばれたお方なんだぞ!? それを軽々しく殺すとはっ! 殺してやるっ!」


 そう言って俺に飛びかかってきたが、俺はそれを片手で受け止める。


 え? ってかあの婆さん吸血鬼一の魔女って呼ばれていたのか? 吸血鬼なのに? それにあの人の自己評価は中の中だったぞ? あの婆さんかなり適当言ってたんだな。


「無理なことを軽々しく口に出すな。夢や目標を口に出すのは別に構わないし良いことだとは思うが、無理だと分かっていて自分では諦めていることを口に出すのは頂けない。それをずっと続けていると、ただ不可能願望を言い続ける口だけ男になるぞ? 今回みたいにな」


「っせー!! 関係ねーだろっ!」


 図星だったのかブチ切れて再び俺に襲いかかってきたが、更に単調で直線的になった攻撃なんて軽々と避けられる。指一本と触れさせないまま全てを避けきった。


「それよりなんで両親を殺したんたんだ? 尊敬する祖母の子供なんだろ? 優秀じゃなかったのか?」


「あ、あいつらはこの血統に相応しくなかったんだ! だ、だから殺したっ!」


 おっと、自分の両親のことをあいつら呼ばわりか。流石に両親殺しは若気の至りでもしちゃいけないだろ。それに今の発言にも若干の後悔も見えたしな。


 そうだ、ここはいっちょ本人登場してもらって、直接お説教してもらった方がいいだろう。そうしたらもう、親を殺そうだなんて思わないだろうからな。


 よし、蘇生してやろう。

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