第259話 領主の館


「その話、受けましょう」


「そうかい! そうかい! 受けてくれるのかい! 良かった良かった、お前さんなら絶対受けてくれると思っていたよー!」


 この婆さん急に顔色変えやがったぞ。そんなに嬉しいのかよ、ますます不安になってきたぞ。ってかどんな孫なんだろうか。でも両親殺すって相当だよな。吸血鬼の世界ではよくあることなのかもしれないが、両親と何があったんだ。


「その孫はどこにいるんだ?」


「孫はこの街の領主さね。だから、普通にそこに行けば会える。ただ、もう分かると思うが性格に多少難ありだから気をつけるんだよ? まあ、最悪ぶっ殺しても構わないから、気楽にいっておくれ」


 ぶっ殺す!? いやいやいや、何が気楽にいっておくれだよ。俺がぶっ殺してもいいなら逆も然りってことだろ? 開幕早々血みどろの戦いなんて嫌だぞ? もう先が思いやられるなこれは……


 それに何しれっと領主してるんだよ。流してしまうところだったぞ? 悪魔だけじゃなくて吸血鬼もこうやってしれっと人間社会に紛れているんだな、しかも割と立場のある人間に扮して。恐ろしいことこの上ないぞ?


「俺はなるべくぶっ殺さない方向で行きたいのだが、具体的に何をすれば目標達成なんだ? そこだけははっきりさせておこう」


「そうさね、孫は今調子に乗っていて他の吸血鬼達に戦いを挑もうとしてるのさ、それを食い止めることが出来たらお前さんの目標達成だ。勿論ぶっ殺してもいいが報酬はいくらか下がるさね。これでどうだい?」


 おー、これなら分かりやすいな。ってか孫調子に乗りすぎだろ、これはお婆ちゃんが心配するのも頷けるな。それに下げる報酬って絶対、奥義だろうな。ますます殺せなくなったがそもそも殺す気もなかったから大丈夫だろう。


「分かった。では、その領主の館までの地図か何かが欲しい。今は暗くて道も分かりにくいからな」


「あいわかった、地図はこれさね。後は忠告を一つ、あんたはうちの孫を殺そうとしないかもしれんが、逆は普通にある、むしろ殺そうとしかしないだろうね。気を抜いているとすぐにやられてしまうよ。まあ、あんたが死んだところで何もないんだがね」


 婆さんはそう言ってはーっはっはーと高らかに笑った。


 いや、別に面白くもなんともないぞ? 何言ってるんだこの婆さんは、大丈夫か?


 でも正直な話、俺の場合はむしろ殺してくれた方がいいからな。殺せるならどうぞ殺して下さいって感じだ。まあ、吸血鬼に代々伝わる奥義で死ねる可能性はあるから、楽しみにしておこう。


 ただ、思考がぶっ飛び過ぎて会話にならないってことだけはないと信じたい。それだと俺が死ぬことは出来るが、報酬が貰えない。報酬は秘密道具と奥義だからな、くれるって言うのならば貰っておきたい。


 まあ、取り敢えず行くか。どう転ぶにしても行ってみないと始まらないしな。でも両親殺すって相当だよなー。日本だと大昔は尊属殺人って言って、普通の人殺しよりも刑が重かった気がする。途中で改正されたらしいけど、日本ではそれくらいやばいってことだからなー。どんな性格してるんだろうか。


 ❇︎


 どうやらここが領主の館らしいな。走ってきたが、目立っていて迷わなかった。地図、いらなかったな。まあ、もらった手前すぐに捨てるのもアレだしな、この塔をクリアしたら捨てよう。


 館の見た目はいかにも成金野郎って感じが漏れ出ている。吸血鬼のくせに金とかの装飾が多い。基本は街の景観に合うように白ベースなのだが、ところどころ黒や赤が混ざっており自分のアイデンティティを主張している。


 んーこれってアポとか取らなくて良いのか? 道場破りみたいになってしまうだが。それだと流石に印象良くならないよな。


 いや、印象良くてもどうせ殺されるのか。ならもういいや、入っちゃおう。

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