第258話 話
この婆さんの言うことなんて大したことないと思っていたのだが、この婆さん、ヤバいことを口にしやがった。吸血鬼だと? この時間帯に明かりをつける家には吸血鬼しかいないのか?
「まあまあ、そんな気構えんなさんな。別にあんたを取って食おうってわけじゃないよ。そもそもあんたはそんなに美味しそうじゃないしね。まずはあんたの疑問を答えてあげるさ、話はその後さね。
吸血鬼は吸血鬼を見たら一目で分かるのさ。匂いが違うからね。だから決して同士討ちは起きないのさ。お前さんを中に入れた理由はお前さんの疑問がなくなってから話すことに関係があるさね」
お、おう俺をここに入れたのには訳があるってことか。妙に強者のオーラがあるし、自称吸血鬼だし、婆さんだしで色々胡散臭いが手掛かりが他にないし、次に進めないからな。
「分かった。では、その話とやらを聞かせてくれ」
「ん? もう疑問はないのかね? あったら今のうちに言っておくれ、これを逃すともう質問は許されないよ?」
んー、そう言われると聞きたくなるな。だが特に聞きたいことがないのだが……あっ、そうだ、
「貴方は吸血鬼の中でどれくらいの強さなのですか?」
「うん、なかなかいい質問だ。私からある程度のオーラを感じ取れている証拠さね。ただ、私は老いぼれも老いぼれ、ただの老害、吸血鬼の中じゃ良くて中の中くらいだろうよ」
この婆さんで中の中かー、吸血鬼はかなり層が厚いようだな。まあ、一応自己評価ではあるから、この婆さんが嘘をついている可能性も考慮しておこう。
「分かった。質問はこのくらいだ、話をしてくれ」
「もういいんだね? じゃあ話をしよう。なに、話と言っても大してことはないよ、孫の話だ」
「孫の話?」
「そう、孫じゃ。吸血鬼も代々血を受け継いで子孫を残していかなきゃいけない。ただ、私らは寿命が長いからそんな頻繁には子供は産まんがね。
まあ、そんなわけで私には孫がいるのさ。その孫は少しやんちゃ者でね、少々おいたが過ぎちまったのさ。具体的には吸血鬼の中では禁忌の同士討ちをし、最後には自分の両親まで殺しちまったのさ。それで吸血鬼の中には敵しか居なくてね、だいぶピンチな状況なんさね。
それでも本人は余裕のつもりで、実際そこそこ強いのも事実さ。でも、もっと強い吸血鬼も多くいるし、そいつらが束になって襲ってきたら勝ち目はない。
つまり何が言いたいかというと、うちの孫をどうにかして欲しいのさ」
…………は?
大丈夫かこの婆さん、頭イカれているんじゃねーのか? 何を言ってるのかさっぱり分からない。まあ、孫の話も頭はおかしいが理解は一応可能だ。だが、最後のはなんだ? どうにかしてくれ? こんだけ喋っておいて、まとめ方雑過ぎるだろ。
「どうしたんだい? あんたが強いってことは一目見た時から知ってんだ。無理な話じゃないだろう? それにしっかりしてくれたら報酬も出すよ、吸血鬼に伝わる秘密の道具をね。どうだい? 受けてみたくなっただろう?」
うん、確かに吸血鬼に伝わる秘密道具は気になる。気になるがどう見ても物で釣ろうとしている感満載だな。物で釣るってことは相当厄介な仕事ってことだろ? それに見合うだけの価値はあるのか?
「もし、断ったらどうなる?」
「そうさね、一秒も経たないうちにあんたはこの世界から消えてるだろうね」
いや、怖っ! 普通に脅しじゃねーかよ。だいぶやばいぞ、このババア。もうなりふり構わなくなってきやがった。迷う、かなり迷う。だが、この世界から消すってことは死ぬってことだろ? ってことはリトライは出来るってことだが、この話を受けないことには先には進めないんだろ?
「これでもまだ受ける気にはならんのかい? 分かった、じゃあ吸血鬼に伝わる最終奥義、これも報酬に追加しよう、これでどうだい?」
はい、受けます。
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