第257話 婆さん


 とりあえず本物の吸血鬼っぽい奴は倒せたんだが、絶対に三下の雰囲気だったし、まだまだ上はいるだろうし、強さも桁違いなんだろうな。


 んー、もっと手掛かりが欲しかったんだがそこまで得られるものも無かったな。


 あ、そうだそういえば俺は右か左の家を選んで入ったんだな。ならもう片方の家にも入ってしまえばいいじゃないか、誰も片方しか入っちゃいけないと言ったわけじゃないんだ。よし、入ってしまおう。


 ガチャ


 あれ、開いてない。それもそうか、こんな物騒な世界なのに鍵を開けっぱなしにしてるなんて相当無用心だよな。ゲームって他人の家に普通に入れるから、何も考えずに不法侵入しようとしてたな。このゲームではしっかり現実とほぼ一緒と思って過ごさないとな。


 コンコン


「すみませーん、誰かいませんかー?」


「だれじゃお主は、こんな時間になにをしておる。ここを彷徨いているとお主も疑われてしまうぞ」


「す、すみません」


「男なら、すぐに弱々しいとこを見せんじゃ無いよ! 情けない男だねぇ、いいから入んな!」


「す、すみま、あ、ありがとうございます!!」


「だから謝るんじゃないよ!」


 この婆さん、当たりは強いけどすんなり入れてくれたし根は優しい。確かにこんな時間に彷徨いていたら相当怪しいな。俺からしたら飛ばされただけだから夜遅いっていう感じもしないのだが、仕方ないな。


 家の中は意外と綺麗にされていた、豪華、というほどでもないが置いてあるものはどれも逸品だというのが見て取れる。もしかしたらこの婆さん立場があるすごい人なのか?


 ん? 待てよ? 仮にこの婆さんが立場があるとしてなぜ俺をこの家に入れたのだ? いやそもそも立場のあるなしに関わらず俺が吸血鬼である可能性は拭えないはずだ。なのにどうして?


 さっきは相手が吸血鬼だったからむしろ家に入れたくて、こちらもまんまとそれに引っ掛かったのだ。だとすればこの婆さんももしかすると……


「なに、そんな所で突っ立っている。早く座りな。ってあんた、私が吸血鬼じゃないかと疑っていそうな顔をしてるじゃないかい。まあ、それも含めて一旦座りな。私は立って話をするのが好きじゃないんだ」


 この婆さんの言葉には何か逆らえない重みのようなものを感じられた。有無を言わせぬ無言の圧力、この婆さんかなりのやり手だな。警戒レベルを上げておかなければ。


 俺が座ると、お婆さんが口を開いた。


「私からも言いたいことはあるんだが、先にあんたの疑問を解決してあげようじゃないか。なんでも良いから好きに質問しなさい」


 うん、やっぱりこの婆さんは良い人なんだな。しっかり俺の疑問にも答えてくれるのか。優しさといより、この婆さんの余裕とか経験とか、そういうものの方が強い気はしてきたな。


「ではまず、どうして私をこの部屋に入れたのでしょうか。私が吸血鬼である可能性もあるますよね? どうして私を信頼し、中に入れてくれたのでしょうか」


「ほぅ、なかなか良い質問をするじゃないか。馬鹿ではないといったところかね。多くの者はその違和感にすら気づけないからね。いいよ、答えあげよう。なぜ私がお前さんを部屋に入れたのかを。それはあんたが吸血鬼じゃないっていう確信があったからだよ。

 おっとそう、先走るんじゃないよ落ち着きなさい。その理由までしっかり教えてあげるよ。なぜ私が確信できたかと言うと……」


 溜めるなー、この婆さん。どうせ大したことじゃないだろうに。


「私が吸血鬼だからだよ」

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