第250話 夢と現実


 アイスが一撃でこの階層のボスを倒した後、大男が座っていた場所に魔法陣が現れた。


 そのアイスの攻撃というのは、ぱっと見の外見上ではその人の上にバラが咲いているようにしか見えないが、氷を確認してみると、どうやらこのバラは人の血で出来ているようだ。


 コレはあくまでも俺の考察でしかないのだが、おそらくアイスはあの大男の体内の血液を一度に凍らせ、それによって血液の体積を膨張させたのだろう。


 あれ? 凍らせると体積って大きくなったっけ? 大きくなるのは水だけだった気がするがそこはゲームパワーとして受け入れるしかないな。


 そんなことよりもアイスのポテンシャルが凄い。なんだこの才能は、あんなに気弱そうだったアイスがボス級の敵を秒殺できるほどとは……


 正直舐めていたし、可愛いから強くはない、という固定観念に囚われていたようだな。いや、それでもここまで出来るとは想像もしていなかっただろう。素直にアイスに称賛を贈ろう。


 そう思ってアイスの方を向くと、アイスは横になってゴロンとしていた。おそらく大技を使って疲れたのだろう。まあ、それ程の技だったし、それがなくても結構戦闘を任せたからな。


 それでも、今回のアイスの初陣は大成功と思っていいだろう。アイスのポテンシャルも存分に知れたし、俺も殆ど手助けしてないしな。唯一行ったのは、アイスに指示されて雑魚狩りを行ったくらいだな。


『アイス、お疲れ様』


 俺がそう声をかけると、アイスは、


『むにゃむにゃ、ごちゅじんちゃまー』


 と夢見心地で俺の名前を呼んでいた。どんな夢を見ているんだろうな、寝ている姿はとても可愛いがずっとこのままにしておく訳にもいかないので、一旦戻らせる。


 そして、遂に次の階層に行くことが出来る! この階層にいた時間はそこまで長くはないだろうが、色々なことがあったおかげで体感時間では割と長めだったな。

 

 そうして俺は魔法陣に足をかけ転移した。もう恒例で何度も経験したこのホワイトアウト、そしてその先に広がるのは……


 寂れた都市だった。


 ここはまるで十九世紀頃のロンドンのような、薄暗く、霧がかった街並みだ。正直言って情緒も趣も一切ない。だが、それと同時に戦闘の気配もなさそうなのだ。


 こんな街でどんな風にどんな敵と戦うのか、俺は少しワクワクしていた。


 だが、何をすればいいのか分からないため、一旦適当に進んでみる。まるで自分がRPGの主人公にでもなった気分だ。ここに来て新鮮な気分だがいつ戦闘が始まるか分からないため、存分に注意しながら進んで行く。


 勿論気配感知も万全だ。常に周囲を警戒している。


 俺がこのように警戒して歩いていると、突如俺の背後に気配が現れた。だが背後と言っても相当な背後だが。恐らく相手は俺が気づいていることに気づいていないだろう。それ程の距離が空いている。


 どうやらまたも人間のようだ。暗くて姿が見えづらいが、フォルム的に人間とみてまちがいないだろう。


 よし、今の内に処理しておこう。韋駄天走からの、シンプルに剣で斬る! 近づいて斬るというただそれだけの攻撃ではあるが、威力はそれなりにあるはずだ。相手も大きくのけ反っている。


「あああー」


 しかしなんと、俺が斬った敵はのけ反っただけでまた体勢を立て直し、俺に向かってきていた。俺は確実に倒せたと思い、油断していたためほぼゼロ距離の相手に対して何も出来なかった。そのまま俺が無抵抗の間にその相手は俺の首筋に歯を突き立てた。




 気づくと俺は死んでいた。

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