第239話 信頼と後悔
「すまん、便所ってどこだ?」
は? 便所? 何を言っているんだこいつは、便所に行きたいのか? それでもこんなに怪しい奴に聞くか? 自分で言うのもなんだが、相当怪しいと思うぞ。まあ、それほど膀胱に危機が迫っていたと言うことなのだろう。
これはチャンスなのか? だが、俺の中でもしかしたらこれは罠なんじゃないか、っていう気持ちもある。これが実は秘密の合言葉だったり、単純に俺を後ろから襲ってくるかもしれない。
まあ、襲われてもいいか、返り討ちにすればいいだけだからな。となると、ここは完全に味方キャラで行こう。もしかすると何か情報が入るかもしれない。
「便所? ならこっちだ。ついて来い」
「おー! 本当に助かるぜ! この恩は一生忘れねーぞ!」
これを本心で言っているのか、それとも内心では別のことを考えているのか全くわからない。喋り方、表情、何を取っても馬鹿そうに見えるのだが、逆にそれが完璧すぎるまでの馬鹿であるため、これは作られたものではないのか、と感じてしまう。
更に問題がある、それは俺がトイレの場所を知らないと言うことだ。今、俺の隣にいる奴は必死に尿意を抑えているのかもしれないが、トイレの居場所すら知らない奴に付いて行ってるって、なかなかカオスだな。
ん? ちょっと待てよ? 一体俺はなんでこんなことをしているんだ? ここで俺が習得したいのは対人戦のスキルであって、対人コミュニケーションでもないし、人の誘導でもないぞ?
よし、もうこんなことはやめよう、さっさとこの階層をクリアしに向かうか、対人戦をしよう。馴れ合う必要なんて一切ない。
では、短い間だったがありがとうな。お前が俺に対してどう思っていたのかは知らないが、ここでお別れだ。トイレ連れて行ってあげられなくてごめんな。
「おい、もうすぐ着くのか? 俺、もうかなり限界に近づいてるんだが…」
「大丈夫だ」
ドサッ
俺は振り向き様にギロチンで殺してやった。申し訳ないが、仕方なかったんだ。天国でいっぱいトイレに行けよな。
ーーー称号《裏切り者》を獲得しました。
《裏切り者》‥自分のことを信頼している人を殺す。NPCからの好感度が下がり、信用されづらくなる。同時に取得不可能職業につくことが出来る。
お、称号を何か獲得したようだな。なになに……
「なっ!?」
お、お前、本当に俺のことを信頼していたんだな。すまない、軽々しい気持ちでトイレに連れて行くなどと発言して、さらにはその場所すら知らない挙句、お前を疑ってしまっていた……
「すまん」
よし、これであいつも許してくれるだろう。見た目の通り馬鹿だったとはな。馬鹿は憎めないからなー、本当に申し訳ないがまあ、それでも仕方なかったのだ。あいつの分までしっかり鍛錬を積んでイベントで優勝するぞ。
というかよくよく考えると、何故あいつはトイレの場所を知らなかったんだ? ここの組織? 建物は一体何の為にあるんだ? ますます謎が深まるばかりだな……
「あっ」
結局チェーン二刀流とは戦えずに殺してしまったな。
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