第235話 マウント
建物の中に潜入したのだが、よくよく考えると、なにも考えずに見張りを即死させたことはまずかったかもしれないと思い始めていた。もし、ここが王族の城ないし別荘だった場合、俺は一瞬で指名手配犯だ。
ここの内装もしっかりしていて、もしかしたらそんなこともあり得るんじゃないかって思わされるほどだ。
でもまあ、指名手配犯になるのもそれはそれでアリだな。どこまでの範囲かは分からないが、仮に王族に反逆したら、俺は国中を敵に回すことになる。こんな体験現実世界では確実にできないからな。
今までのあらゆる体験は本当に出来ないことが多かったが、指名手配犯は、現実でも体験出来るってとこがミソだよな。
まあ、現実の場合体験は可能というだけであって、実際にしよう、とは決してならないのだが。それに、世界的な指名手配ってかっこいいけど、その分普通に難易度も高そうだ。どんなことをすればなれるのか検討もつかないよな。
「っ……」
おっと、早速敵に遭遇したな。都合よく一人でうろついてくれているようだ。しかし、こいつの見た目は完全に堅気ではないぞ。明らかに趣味が悪い服装をしてるし、何より目がイってる。
武器もしっかり携行しており、その趣味も悪い。チェーンをジャラジャラつけて、ナイフもそんなに曲がる? ってくらい曲がっちゃってる。
よし、もう倒そう。見てるこっちがイライラしてきたからな。姿を見せて一対一と洒落込もうじゃないか。
「お? 見ねえ顔だな。お前どこのもんだ? ここはお前みたいなガキンチョが来るところじゃねえぞ。お前は今すぐ帰ってママのミルクでも飲んでろよ、バーカ」
俺は一旦曲がり角の手前まで戻って隠遁を解除し、姿を現した。そしてお互いがお互いの姿を確認した瞬間に俺は口による先制攻撃を仕掛けた。もう、勝負は始まっている。
名付けて、「明らかに俺の方が怪しいが、俺の方が"ここは俺のホームだぜ感"を出して罵ったら、低脳おサルは激昂して襲いかかって来る」作戦だ。
自分で言ってて意味が分からなくなったが、まあ、俺がここの構成員感を出して向こうが異端であると、断定し罵ったわけだ。
つまり、向こうからすれば、ここでは見かけない初対面の奴から急に帰れって言われたわけだ。意味不明だ。相手も突然すぎてポカンとしている。よし、上手く俺の作戦に引っかかっているようだ。ここから更に畳みかかける。
「どうやらチビって声も出せなくなったらしいな。だからガキって奴はよう、使えねえんだ。俺が直ぐに楽にしてやるぜ。だが、ここまで来たことに関しちゃお前は優れていた。ただ、それまでだったというわけだ。恨むなら自分の運命を呪うんだな。では、じゃあな」
「いや、お前が誰だよ」
……だろうな。まあ、今更我に返ったところで時すでに遅しだ。何故俺がこんな意味不明なことをしたのかというと、増援を呼ばれたくなかったからだ。一方的に罵って向こうがハズレもの感を演出することで仲間を呼びにくくさせたのだ。
実際、呼ばれていないから俺の作戦勝ちだな。
お互いに向き合って剣を抜く。やっぱり不細工なナイフだな、趣味が悪い。
今回は剣だけで戦うという、縛りをつける。どんな手段を使ってもいいならもう倒せているだろうし、意味不明な行動をしたのも対人スキルを養う為だ。
剣だけ、というのは勿論スキルも使わないということだ。俺がミノタウロスを倒すために培った技術がどこまで通用するか楽しみだな。
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