第236話 読みと置き


 お互いが得物を抜き放った後、何秒ほどだろうか、一瞬だった気もするが、結構時間が過ぎたように思う。そして、お互いに示し合わせたように突進した。


 俺は剣を右下段に構え、剣先を右下の地面に向けており、相手は右手でナイフを中段に肘を引いて地面と水平に構え、左手にチェーンを持っているような状態だ。


 更に、そのチェーンをよく見てみると、先には重りがついており、巻きつかれたりしたら厄介だ。


 それに対し俺は今回は剣は一振りで戦うつもりだ。片手剣と両手剣のどちらを主流にするかは微妙なところだが、気分だな。後は個人的にハンデのつもりだ。


 両者共に近づくと、相手はまず右手のナイフを肘を引いた状態からそのまま伸ばして俺に突き刺そうとして来た。


 突きの攻撃は攻撃範囲が狭い代わりに、攻撃速度が速い。ナイフの取り回し安さで翻弄して、チェーンで仕留めると言った感じだろうか。


 そう考えるとこの攻撃はもちろん囮で、本命は左手に持っているチェーンだ。だから、ここで向こうから見た左、俺で言う右側に避けたらチェーンの餌食になるだろう。だから俺は突き攻撃に対して右に避ける。


「なっ!?」


 相手も驚いているようだ。チェーンを持っている相手に対して、そちら側に避けるのは一見悪手のように思える。が、一般的に正しそうに思えることにはそりゃ相手も対策をしてくるのだ。


 むしろ、相手は俺がチェーンと反対側に避ける事は折り込み済みだったのではないだろうか。今まで戦ってきた相手もそうだったろうし、その上でどう立ち回るかが勝負だからな。


 ただ、それでは甘いのだ。誰かが作ったルールの中で上手くやるのは二流だ、一流は自分でルールを作るのだ、何事においてもな。因みに既存のルールでも上手く出来ないのが三流な。


 まあ、今回は言ってしまえば相手が武器を使ってるから俺も使うと言う風にルールに従っているが、これは別にいいのだ、そういう風に俺が俺自身に縛っているからな。俺は別にいいんだ、うん。


 時を戻そう。俺が相手の思惑から外れてチェーン側に避けたことで相手の反応がほんの僅かだが遅れた。それでも相手は対応して俺に鎖を振ってきた。元々は鎖の反対方向に振るう予定だったのが狂って少し窮屈になってしまっている。


 俺はしゃがんで体勢を低くする事でチェーンを潜り抜け、反撃の素振りを牽制で相手に見せつける。ここで攻め急いではダメだ。これはまだ相手も反射的に回避行動を取れてしまう。


 だが、ここで防御姿勢を取ったら、終わりだ。本命の攻撃はもうすでに置いている。


 グショ


 俺は牽制で反撃のモーションとして右上段に剣を振りかぶったのだ。まるで袈裟斬りを今から繰り出しますよと言わんばかりに。そうすると相手はその攻撃を避ける為に、剣筋から外れた、俺からみて右側に避けたのだ。


 そしてそれを読んでいた俺は牽制の剣を振ることなく、予め回避先である場所に剣を横なぎしたのだ。


 これだけをきくと俺に、とてつもない予知能力があるとか、未来予知を使っただろって思われるかもしれないが、そうではない。


 今回上手くいったのは半分偶然だ。勿論俺はこの結果になるのが一番可能性が高いと判断し、そうなるよう誘導もした。


 それでも、相手が逆側に避けたりナイフで防ごうとしてたら決まらなかっただろう。だが、大事なのは、相手に攻撃を、ダメージを与える事ではない。相手をいかにして倒すかだ。


 その理論で言うと、今回は外れても良かったのだ。俺が攻撃を置いておく事で、相手が思うように行動したら狩れるし、予想外の行動をしても、本来の牽制のダメージも与えられていないから、結果的に得しかないのだ。


 うん、久しぶりの読み合いはやはり楽しいな。ハイレベルな駆け引きが出来ることを考えると、イベント戦はかなり期待できるぞ。

 

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