第231話 砲身


 山のように大きな戦車がどんどん俺に近づいてくる。やばいな、近づいて来れば来る程その圧倒的な存在感が俺にのしかかってくる。こいつを倒すビジョンが見えないな。


 恐らく、俺の事なんて眼中にもないのだろうが、小さきものの力見せつけてやる!


 ウィーーン、ガシャンッ


「え?」


 どうやって攻略してやろうか考えていたら、一番大きな砲台が俺に向いた。


 え、俺?


 ッドガーーーン!!


「はぁ、はぁ、」


 なんで俺なんだよ、なんで俺を狙ってくるんだ? まさか俺があの大砲の先にドローンとか人型ロボットの残骸をねじ込もうとしてたのばれたのか?


 とりあえず相手の主力を潰す事が出来ればだいぶ変わって来るかと考えたのだが、どうやらそれもすでに読まれていたようだな。なかなか手強い相手のようだ。


 俺は、自分に大砲の先が向けられた瞬間、無意識のうちに天駆と韋駄天走で斜め上へと飛び出していた。砲台の先へと向かって。


 今まで史上、最高速度が出たかもしれない、それほどの速さだった。スキルに頼り切るのではなく、俺自身も全力で足をフル回転させた。


 本能的に斜め上に行けば助かると思ったのか、全速力で駆け上がったのだが、それのおかげでなんとか回避できた。俺がつい先ほどまでいた場所は、そこを中心に大きなクレーターが出来上がっていて、ここ以外の場所に逃げていたら当たっていたかもしれない。


 ここに全力ダッシュした俺、神だわ。


 そうして、狙ったわけでもなく、戦車本体についてしまった。あ、俺とてつもなく天才なこと閃いたぞ。戦車の中に入ってしまえば、外側についている大砲のことなんか気にせずに済むじゃん! やばい、今日の俺冴えてんな、早速侵入しよう。


 あ、その前に一応、この一番ぶっとい大砲だけ斬っておこう。何があるかわからないからな。よし、これで大丈夫なはずだ。


 んと、こういう時、何処から侵入するもんなんだ? 丁寧に入り口とか作ってくれてるわけでもないだろうしな。


「あっ!」


 そうだ、さっき斬ったばかりのあの大砲があるじゃないか。あそこから入って、適当に斬り進んでいったら、いつか内部に着くだろう。砲身があるってことは弾を装填する場所に繋がってるってことだろうからな!


 よし、そうと決まれば早速行くぞ。もしもまた大砲を撃たれたら大変だが、あそこまでの弾を連発出来るとは考えにくい。それに砲身も斬られたから撃つ側もただじゃ済まないだろう。


 そんな訳で、ただいま砲身の中だ。大砲のサイズ自体大きいからすんなり入れたし、全然窮屈でもない。そのまま呆気なく弾を装填する場所に着いた。恐らくここに砲手がいるはずなんだが……


 あれ、いない。何処にもいないな。砲身から覗いて見た感じ誰もいない。誰もいないなんてことあるのか? もしかして怖くて逃げ出したとか?


 そのまま砲台の元にある部屋に降り立つと、そこには本当に誰もいなかった。しかも、


「え? 全自動……?」


 そう、そこには砲手なんてものは存在せず、ただただ機械的に弾を作り、装填する、というラインがあるだけだった。


 まじかよ、どんだけ技術進歩しているんだこの戦車を作った世界は。この技術持ち帰っただけで億万長者になれそうだぞ?


 まあ、さすがにゲーム的な要素も働いているとは思うが、まさかここに本当に人が存在しないとは夢にも思っていなかった。


 それにしても、全自動の敵に俺はあんなにヒヤヒヤさせられたのか? それはそれで悔しいし、ムカつくな。


 ここからは俺の番だ。

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