第221話 享楽と失敗


 ハーゲンとオーガのボスが遂に対峙した。その名前を見ると、


〈Lv.120 オーガモナーク〉


 とあった。ん? こいつはキングオーガではないのか? オーガはキングじゃなくてモナークというだけなのか、それともまた別にキングがいるのか。


 まあ、それでも、モナークは君主とかそういう意味だったろ、強いに違いない。さあハーゲン、お前ならどう戦う?


 未だ両者共に見つめ合っている。機を伺っているのだろう。だが、緊張がどんどんどんどん高まっているのが、野次馬の俺でもわかるほどだ。


 この緊張の糸が切れた時、二人とも動き出すのだろう。ならば俺が切ってみようかな。何か良い方法はないだろうか。んー、そうだな、早撃ちガンマンみたいに、二人の中央に何か落としてみよう。


 近くにいたオーガの首を切り落とし、それをサイコキネシスで空中にまで持っていって、落とせば良い感じになるだろ。


 俺はハーゲンを行かせた後、すぐに隠遁を発動しており、気づかれてはいない。まあ、スキルを発動していなくても、あのハーゲンの暴れっぷりを見ると気づかれなさそうではあるが。


 そんなことで、近くに居たオーガを手早く処理して、頭を確保した。そしてあとは、空中に投げ出すだけだな。


「【サイコキネシス】」


 オーガの首が宙に浮いていく光景はなんとも気味が悪いが、仕方あるまい。そうして、まだ向かい合ったままの二人の中央に持っていく。


 よし、位置はばっちりだな。あとはサイコキネシスを解除して落とすだけだな。あ、そうだ、こっからだと分かりにくいから俺も上に行こう。


 俺まで上に行ったらなんの為にサイコキネシスを使ったんだ、ってなるが、普通に持って上がるのキツそうだし、何より触りたくはないから結果オーライだ。


 よし、では落とそう。いっけー!


「え」


 風でも吹いているのか? オーガの頭が真っ直ぐ落ちていかない。それどころかどんどん曲がっていっている! しかも、オーガモナークの方にだ。これでは台無しじゃないかよー、折角粋に決めようと思ったのにな。


 グシャッ


 充分すぎるほどの位置エネルギーを運動エネルギーに変換したオーガの頭はオーガモナークの頭の上で爆散した。すると、そのオーガモナークはのっそり上を向き、再びハーゲンの方を向いて雄叫びをあげた。


 あっぶねー、隠遁発動してて良かったな。もし、あそこで見つかってたらどうなってたんだろう。でも、上には来れないから流石にハーゲンに向かうか?


 俺がヒヤヒヤしていたことなんてお構いなしに、二人の戦闘の火蓋は切られた。まあ、それもこれも全部俺が招いたことなんだけどな。


 血管がはちきれそうなくらい激昂しているモナークと、溢れんばかりのワクワクオーラを出しているハーゲンが一気に距離を詰めた。


 ん? ワクワクオーラなんて見えないって? 俺には見えるんだよ。


 そんなことより、お互いに接近した直後、先に動いたのはモナークだった。その巨体に見合わぬ速さでの腕の振り下ろし攻撃だ。あれに当たれば粉々に弾け飛んでしまうだろう。


 それに対しハーゲンは冷静に回避をした。あの巨体からは想像できない速さってだけで、別にハーゲンからしたら速くもないし、寧ろ遅いくらいだろう。余裕で躱すとハーゲンは瞬時に背後に回り一回転して、尻尾で攻撃した。


「尻尾?」


 尻尾はフサフサしていて大した攻撃にはならないだろうと思っていたのだが、どうやら尻尾を固くしていたようだ。頭に強打されたオーガはふらついている。


 しかし尻尾で攻撃するのは初めて見た気がするな。ハーゲンが打撃を相手に与えようとしたらやっぱり尻尾が良いのだろう。殴るのには向いてないからな。


 ただ、俺が戦闘方法を参考にするという点では全く役に立たない。尻尾なんて持ち合わせがないし、打撃がしたいなら拳があるしな。だが、戦闘の進め方に関していうと、初手で相手の行動を奪おうとしたのは賢いな。これは参考になるぞ。


 ん? 参考になるってことはやはり……

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