第220話 野次馬


 オーガの集落に到着した。この集落は第四の街の西のエリアに存在しており、環境的に言うと、森のようだった。もう、ほとんどのバイオームを、帰らずの塔と同様に、出し尽くしてしまったのかもしれないな。


 帰らずの塔は人工物を出す事で被りを避け、現実世界では普通に被りもアリでいく方針らしい。ただ、被りと言っても全く同じと言うわけではなく、というか似てすらいない。


 植物の種類が違うのか、同じ森でも始まりの街の方は明るく、木漏れ日もあるような暖かい森だったのに対し、こっちの森は鬱蒼としており、暗く、いかにも樹海といった印象だ。


 この森に深夜来るのは控えた方が良いと思わせる雰囲気だ。


 そんな空気の中、俺はハーゲンと共にズンズンと進んでいく。別に一人だと怖いと言うわけではない。今回はハーゲンが主役だし、ハーゲンに乗せてもらってまた召喚するの分かっているのに、わざわざ戻すのは面倒くさいと思っただけだ。


 本当に怖いわけじゃないんだからな。そこだけは絶対に勘違いするなよ、絶対にだ。


 森にズカズカと侵入し始めて程なく、もう右も左も分からなくなってきて、適当に進んでいたら、遂にお目当てのオーガの集落を発見した。


 それにしても、思ったよりもきちんと整備されていて、大きな集落だ。流石にハーゲン一人ではこれは厳しいかもしれないな。そう思ってハーゲンの方を見ると、大していつもと変わっておらず、むしろ少しワクワクしているように見える。


 んー、とりあえずハーゲン単騎で向かわせてみるか、危険になったら俺が手を出せば済む話だからな。どれだけ出来るのか、と言う所を見せてもらおうじゃないか。


 ハーゲンのフサフサになってしまった頭をポンポンと軽く撫でるように叩いた。すると、ハーゲンは勢いよく飛び出していった。まだオーガ達は俺らの存在に気付いていなかったようで、完全に油断したところにハーゲンが攻め込んでいった。


 初手、ハーゲンは適当に見つけたオーガの首を前足で一思いに刎ねた。一切の躊躇いがないんだよな。モンスターにはそういう道徳とか倫理とかがない分、人間よりもよっぽど冷酷に執行出来るんだろうな。


 そのままハーゲンは出てきたオーガ達を次々となぎ倒していった。時には前足で、時には牙で、時には魔法で蹂躙の限りを行っている。


 ただまあ、こうなることは薄々勘付いていた。最近のハーゲンは本当に強いからな。だが、これらはあくまで前座だ。最後の方にはしっかりメインディッシュが残っているのだ。


 集落と言えば、長がいるのが当然だろう。その長にどんな戦いを繰り広げるのか、非常に楽しみである。


 もう、ハーゲンが殺したオーガの数は三十体を超えている。そろそろ看過出来ない領域に到達するんじゃないか? ボスが出てきてからが勝負だからな。


 雑魚だけならある程度の実力があれば倒せるのだ。ただ、ボスがいる状態での雑魚はまた話が変わってくるからな。ここでハーゲンの真価が問われるな。


「おっ」


 来たぞ、とうとうボスのお出ましのようだ。やはりオーガのボスともなると体格が違うな。随分前に倒したエンペラーオークもなかなか厳つかったが、今回はその比ではない。


 圧倒的巨躯と、圧倒的筋肉、そして圧倒的威厳を見に纏い、ドスン、ドスンと登場してきた。気持ちハーゲンが小さく見えてしまうな。


 ハーゲンに頑張れーと心の中で応援しておく。


 それより俺ならどうやって倒すのだろうか。いつも通りバフをガン積みするか、巨体相手なら、スピードを活かして蓮撃もありかもな。


 まあ、こうやって自分以外の真剣な戦いってあまり見たことがないから、しっかり見よう。従魔とか関係なしに参考になるものはなるべく取り入れたいからな。


 ん? ただの野次馬じゃねーかって? そーだよ、何か悪いか?

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