第219話 V


 装備を作るのには例の如く、一ヶ月ほどかかるらしい。逆にいつも一ヶ月で完成させてくれるからありがたい。


 そして、完成するまでの間、帰らずの塔をクリアしてもいいんだが、ずっとあそこに引きこもっているのも詰まらないし、飽きてくるため、久しぶりに依頼を受けようと思う。


 暗殺ギルドにやってきた。今回依頼を受けようと思ったのは何も帰らずの塔に飽きたからだけではない。ハーゲンとの約束の為だ。


 強者と戦いたがっているハーゲンに、帰らずの塔では手頃な相手がいないと思ったのだ。格下か格上かしかいないような気がして、安全に気持ちよく戦ってもらうには少し役不足なのだ。


 本人は命を削るような戦いがしたいのかもしれないが、やはり保護者の観点から見るとやはり不安なのだ。親は子供が危険な目に遭わないよう、きつくいうのと一緒だ。


 叱られる度に、これは貴方の為と言われてきたが、それは自分が心配したくないだけなのだろう。子供が死んで悲しむのは親だしな。死んだ本人は何も考えることなく生まれ変わるか、天国にいってるだろうしな。


 ハーゲンを大事に思うことで親の気持ちも少しわかる気がする。少なくとも、ペットを飼ったことはないが、ペットを持つ人の気持ちはほぼ理解出来るだろう。


 いや、戦友という意味では、そこら辺のペットの主よりかは深い関係ともいえる。ただ、バーチャルな存在という点では違うのかもしれないけどな。でも、バーチャルとリアルって違うものなのか?


 もっと突っ込むなら、仮想と現実とははっきりと優劣がつけられるものなのだろうか。確かに前時代、それこそまだヴァーチャルの技術が発展していない頃ではそれは明確なのだろう。ただ、もう現実と変わらない水準にまで迫っているこの世界で、優劣なんて存在するのか?


 それにもし、この先もっと技術が進歩してなんら現実と遜色の無い仮想世界が展開された場合、どうなるのだろうか。ヴァーチャルなペット、ヴァーチャルな教師、ヴァーチャルな友達、家族、もしそのようになったらこの世はどうなるのだろうか?


 彼らに人権等は発生するのだろうか?


「おーい、大丈夫ですか?」


 おっと、少し考えに集中しすぎてしまっていたようだ。ここは初めて来るギルドだし、そりゃ心配にもなるだろうな。


 しかも、受付は初めての女性だ。ただ、女性だからと言って、甘く見てはいけないようだ。彼女は明らかに強者のオーラを纏っている。間違いなく、暗殺ギルドの受付に足る人物ということだろう。


 それにしても、ヴァーチャルの話は俺にとって関係ないし、俺とハーゲンの関係性もなんら変わることはない。これまでも、これからも俺の大切な従魔だ。


 よし、前置きが長くなったな。早速依頼を選ぼう。一ヶ月以内に達成できるもので、ハーゲンが満足出来る相手となると……


「おっこれだな」


 オーガの里の処理、って書いてあるな。オーガは俺のイメージではそこまで強くないし、それでも数がいればそこそこ苦戦するだろう。


 もし、難無くクリアしたら、また依頼を受ければいいだけからな。


 装備が完成したら強くなれるのは間違いないが、俺がミノタウロス戦で分かったように、地力も大切だからな。今回はそれを鍛える旅ということにしよう。


 あ、別にそれをハーゲンに忘れさせないように、キングミノタウロスを素材にしたわけじゃないぞ? ただのたまたまだ。

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