第218話 名もなき職人
儂は始まりの街で鍛治職人をしている、名乗る程でも無い、ただの老いぼれじゃ。
もう、人生も残り僅かとなった今だからこそ、やりたい事である鍛治をしているのじゃ。鍛治職人になる前は一介の冒険者じゃった。冒険者にはなんの気なしになったのじゃが、そこで儂は剣に魅入られて、この仕事を墓場に、と決めたのじゃ。
剣を打つのはとても楽しいのじゃ。剣と向き合う事でそれが跳ね返り自分との対話になるのじゃ。そうすると今まで見えてこなかったものが見えてくるのじゃ。
この歳になってもまだ新たな発見ができるというのは幸せものじゃ。
じゃが、場所が悪かったのじゃろう、ここに店を構えていると客がこんのじゃ。人通りが少なく人が入ってくる気がせんのじゃ。偶に客が来たと思ったら、明らかに堅気じゃ無い奴らで、態度がでかく、足元を見てきよる。
全盛期の儂ならば勝てたかもしれんが、今となっては戦おうという気すら湧かんわい。そんな奴らがきたら、適当にあしらって帰ってもらうのじゃ。変な奴に儂の武器は使って欲しくないからな。
そんな訳で毎日客も殆どこない中、一人でやっていたんじゃが、ある日、珍しく普通のお客さんが来たのじゃ。いや、普通でもなかったか、異質なオーラを放っており、最初は年甲斐もなく怖がってしまったわい。
それにとても強い素材を持ってくる、お金もない、装備はちゃっちい、到底まともには見えんかったが、あの放つオーラの前では儂はただただ無力じゃった。
まあ、それもいい思い出となり、最近ではすっかり常連となってくれたわい。ただ、たまに来たと思ったら、以前よりも格段に強くなっており、今でも儂はどうしても気構えてしまうのじゃ。
そんな奴が、今日やって来たのじゃ。またどうせロクでもない事を頼まれるのじゃろうが断れぬ。恐怖もあるが、年齢的には孫くらいじゃからのう。可愛がりたくもなるのじゃ。まあ、取り扱いには注意じゃがの。
そして、案の上従魔の装備を作れという、突拍子もない事を言い出しよった。儂はどちらかというと、剣を作るのが好きで、その他の装備はそこまでなのじゃが、まあ、特別に作ってやっておる。
「……」
毎度毎度、此奴が持ってくる素材は規格外すぎるのじゃ。なんじゃ悪魔とキングミノタウロスって。キングミノタウロスは漢の中の漢といった性格でとても強い。儂も一度だけ手合わせしたが普通に負けたわい。
この素材を従魔に使うとは、なんと幸福な従魔じゃろうか。そこら辺の冒険者よりもよっぽど待遇がいいわい。
そして、この悪魔の素材、悪魔とは一般的には知られておらん存在で、儂もこの仕事に就くまでは知らんかった。じゃが、それを倒して装備にするとは……本当に此奴は何者じゃ? 相当強いのは間違いないじゃろうが、それを何でもないように出すとは……一旦この素材は置いておくかの。
それよりも、キングミノタウロスの装備をする従魔とは、一体どんな従魔なんじゃ? 全く想像がつかんの。
「……従魔を見せてくれんかの」
そうやって従魔を見せて貰ったら、儂は言葉を失ってしまった。
なんじゃこの生き物は! こんなものは流石に見たことが無いぞ? 一体なんという生物なのじゃろうか、想像もつかんぞ。
じゃが確かに、これほどのモンスターならばキングミノタウロスの装備も納得じゃ。流石に主人には劣るが、なかなかのオーラを放っておる。これは凄いぞ。待遇だけでなく、実力もそこらの冒険者とは違うってことじゃな。
ん? こんなにも強そうなのに装備いるんかの?
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