第217話 爺さんの腹中


 危ない、危ない、元々はハーゲンと俺の装備を作ろうとして死に戻ってたんだったな。死因に気を取られてすっかり忘れてしまっていたぜ。まあ、誰だってあんな奇妙な死に方をしたら気になってしまうだろう。


 俺が思い出したのは、帰らずの塔に行くためにハーゲンを呼び出そうとした時だった。ハーゲンのことを頭に思い描いた瞬間に思い出した為、まだ呼び出していない。


 無いとは思うが、忘れていたことハーゲンに悟られたくはないからな。


 そんな訳で、もうすっかりお馴染みの、始まりの街の隠れた名店、名も無き鍛冶屋に到着した。


 単に俺が名前を知らないだけで、実際はちゃんと名前はあると思うが、知らない俺からすると無いのとなんら変わりはない。


 ずっとここを利用しているが、まあ、ここには随分とお世話になっているからな。今更別の店を利用しようとは思えないんだよな。店主の爺さんが無口で俺にとっては丁度良い距離感なんだよな。ツケもオッケーしてくれるし。


 あ、そういえば俺今お金無いな。もう、流石にツケするのもどうかと思うからな、んー、素材を売りにいくしか無いよな。


 何か装備を作るときは、毎回、素材を売りにいって資金調達する所から始まっている気がする。プレイスタイル上、お金が貯まらないのは仕方ないのだが、しっかりとギルドの預金システムを有効活用して、なるべく無駄は減らさないとな。


 そうして俺は俺のホームである、暗殺ギルドにやってきた。最近、依頼をまったく受けてないから、白い目で見られるかと思ったが、そんな事はないようだ。暖かく迎えてくれた。


 ギルドでは恙無く素材を売ることが出来た。幸い、素材については帰らずの塔で得た物が沢山あったから、良かった。雑魚の素材であっても高く売れたから、案外悪くない商売だな。


 装備に使おうと思っている素材だけを残して、後は全部売り払った。すると、かなりの額になり、ギルドの方も困っていたが、俺が殆どのお金を預けると言うと、ホッとしていた。


「ふぅ」


 これで漸く鍛冶屋に行って装備を作れるな。


「すみませーん」


 ここに来ると、入るのには今でも少し気合が入るのだが、そのくらい歓迎する雰囲気がまったくないのだ。最初に来た俺は良くもこんな所に入ったよな。


 俺は真っ直ぐに奥にいる爺さんの元へと歩み寄り、仕事を依頼した。


「俺と従魔の装備を作ってほしいんですけど、素材は俺がこの素材で、従魔のがこの素材でお願いします」


 爺さんと話すときは自然と敬語になるんだよな。やっぱり無意識にでもリスペクトしているのだろうか。まあ、自分にはない才能だし、とても良い職人だからな。


 そう言って俺は、自分用に悪魔の素材を、ハーゲン用にキングミノタウロスの素材を爺さんに見せた。相変わらず顔をぴくりとも動かさずに無表情を貫いている。


 このくらいの素材は扱い慣れているのだろうな、流石だな。でも、いつかはこの爺さんをビックリさせられるような素材を持ってきて、装備を作ってもらいたいな。


「……従魔を見せてくれんかの」


 あっ、そういえばまだ見せてなかったな。ハーゲンを見たら流石に爺さんと言えど、驚くんじゃないか? ハーゲンは俺が無理やり作った、半ばオンリーワンみたいな存在でもあるからな。


「ハーゲン!」


 そう思ってだしたのだが、爺さんは相変わらず無表情を貫いたままだった。


 え、そもそもこの爺さんって驚くのか?

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