　この崖を登るのは意外としんどかった。

　まず、只管に小悪魔の数が多いのだ。それによって攻撃の数も夥しい量になっているのだ。俺は食らってもそんなに被害は無いが、ハーゲンの場合はどんなに小さなダメージでも積み重なっていく。

　そのため、ハーゲンに攻撃を避けたり迎撃してもらったりしているんだが、そればかりでは大元の小悪魔達が一向に減らない。

　チクチクとダメージを入れられ続けるのは普通にストレスが溜まる。ハーゲンは小回りが俺ほどは効かないため、よりストレスを感じているだろう。

『ご主人様イライラするっす！　一旦、このウザい悪魔達を蹴散らしましょう！』

　うん、そんな訳で上を目指していた俺らが小悪魔達の殲滅へと目的を切り替えた。こいつらを無視して崖を登って行くのは、確かにきついが、こいつらそのものの脅威度はそこまで高くはない。

　一度殲滅へと切り替えたならば、そこからはあっという間だ。

『ハーゲン、二手に分かれるぞ。お前はこっから右を、俺はここから左の敵を片付ける。どっちが早く倒せるか勝負だぞ。負けた方は勝った方に何かしような。いくぞ、よーい、ドンっ！』

　ウザくてイライラする時ほど楽しんだもん勝ちだ。こういう勝負って何故か夢中になれるし白熱するよな。ハーゲンは自分の体と魔法を使って倒している。

　ハーゲンの魔法は雷主体だから、一点に集中させることで高火力を生み出す事もできるが、逆に分散させる事で広範囲攻撃にもなりうる、かなり便利な魔法である。

　俺も最近広範囲魔法を獲得したから、対抗出来ているが、もし無かったら、この勝負負けていたかもしれないな。

　だが、俺は並列思考を持っている。千本桜を二方向に展開出来るのだ。俺が負ける道理はない。

『終わったすーーー！！』

　は？　なんでだ？　なんで俺よりも先に倒し終わっているんだ？　流石に俺が勝てるだろうと思っていたのだが、何故だ。数に差があったかもしれないが、それは極々僅かな差だろう。ぱっと見ではほぼ変わらなかったからな。

　ということは俺が手数で負けたということか？　俺は並列思考を持っているのに、負けたってことはハーゲンも並列思考を持っている、いや、それよりも上の段階があってそれを所持しているかもしれない。

　以前もハーゲンの素というか、カッコいいハーゲンが顔を覗かせた事が一度だけあった。つまりはそういうことか？

　その路線で行くなら、やはりキメラとなってしまった影響なのだろう。俺よりも分割して思考出来るとは……いいな。

『ハーゲン、お前は一体どれだけ別々に思考が出来るんだ？　二つではないだろう？』

『ん？　俺っちは三つっすよ？　気づいたら出来るようになっていたっす！　それよりも俺っちが勝ったから何かしてくれるんすよね？　何してくれるんすか？』

『あ、そうだったな。逆に何をして欲しい？　なんでも良いぞ？』

　ゲームに熱中しててすっかり忘れてたな。ってか今思えば俺はハーゲンに何をさせるつもりだったのだろうか。俺がハーゲンに何かするのはまだわかるが、その逆はあるのか？　まあ、負けた今では考える必要もないがな。

『んー、俺っちは強い相手と戦いたいっす！　それと、ご主人様みたいなカッコ良くて、強い装備が欲しいっす！』

　ん？　あれ、そういうことねだってくるの？

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